第143話登校開始、レスリング部顧問の立腹
朝ごはんも食べ終え、三人で登校となる。
「ねえ、もしかして華奈ちゃん、朝ごはん二回目じゃない?」
春奈は、光と比べて食べっぷりがいい華奈に声をかける。
「あ・・・そうだった」
華奈は素直に認める。
「食べ過ぎは肥るよ」
春奈は、ここでニンマリとした。
少なくとも「階段先越され」から、連発の仕返しなのである。
「うん、でもね、春奈さんの朝ごはん美味しいし」
しかし、華奈は、あっさりと返してくる。
褒められてしまうと、春奈もなかなか、それ以上は突っ込めない。
「まだ、若いし消化も早いんですよ」
そのうえ、あっさりと返され、キツイ一撃まで見舞われてしまった。
何のことはない、連発で返されているのである。
春奈の足は、いきなり速くなった。
そんな攻防戦を繰り返し、ついに学園内に入った。
「うわーーーっ」
学園内に入るなり、春奈と華奈は驚いた。
光の姿を見た全員が拍手で迎えたのである。
「コンサート・・・かな」
ようやく光も異常に気が付いたようだ。
少なくともコンサート以外には、ここまでの拍手は考えられない。
ボクシング部にしろ、柔道部にしろ、ここまではならないだろう。
野球部は論外、光としてもコンサートの結果として理解し、お辞儀をしながら廊下を歩いた。
ただ、もともといい加減な光であり、頭を下げ続けることはない。
それが気に入らなさそうな男性教師が光を睨んでいたが、光は気がつかなかった。
光夢がクラスに入っても同じ。
入った途端、全員が立ち上がって拍手をする。
「ああ、ありがとうございます」
日頃はぼんやりとした光もこれには、うれしかったようだ。
久しぶりに笑顔になっている。
「ねえ、本当にすごかったよ」
「クラシックなんて聞いたことなかったけど、ノリノリだった」
「また聞きたいなあ、今度はいつ?絶対聞きに行く」
「最後のショパンは泣いちゃったよ」
「本当に音楽部に入ってくれてよかった」
クラス全員から、口ぐちに称賛の声を浴びた。
光も本当に嬉しそうに、会話をしている。
少なくとも、春奈と華奈、ルシェールの緊張感が漂う自宅よりはホッとした顔になっている。
それでも、隣の由紀に促されてやっと座った。
「光君、やっと戻ってきてくれた」
由紀の顔が赤くなっている。
レスリング部顧問村田は、苦虫を噛み潰したような顔になっている。
それも光、そして春奈と華奈が校門を入ってきた時からである。
「人に囲まれていたかもしれないが、何故俺に挨拶がない」
「それに、どうしてコンサートぐらいで、何故それほど騒ぐのか」
「数字上の実績をあげたわけではない」
「あそこまでコストをかけなくても良かった」
「あんなことをするから、学生全体が浮ついている」
「少なくとも、ここは勉学に勤しむ場」
「とにかく、あの光という存在は、学園内の風紀を乱している」
「そういう不逞の輩は、この学園から除去しなければならない」
「ボクシングと柔道で、何かしでかしたかもしれないが、レスリングとは異なる」
「総合面で言えば、レスリングの方が、闘技としては格上」
「俺も、ボクシングや柔道の選手と立ち会ったことがあるが、負けたことはない」
「みんな投げつけ、手足を極めたら降参した」
「だから、あの光も少し痛めつけよう」
「そして、その上で風紀を乱すとして、学園追放だ」
レスリング部顧問村田もオリンピック選手。
とにかく猛練習でオリンピック出場を勝ち取った。
成績は四位止まりであったが、その熱心さと真面目さから全日本のレスリング協会でも役員を務めている。
また、指導においても、「几帳面な理論派」を貫いている。
指導した選手が、少しでも指導と異なる動きをすると、途端に機嫌が悪くなる。
試合後には、反省文まで書かせる。
そして、その反省文が村田の意にそぐわないと、何度でも書き直しをさせる。
誤字脱字を、最終行で発見した場合でも、全て書き直しをさせるのである。
そんな村田なので、当然生徒から好かれるということはない。
それでも、強引に生徒を捕まえ、「几帳面な理論派」指導を施す。
結果は、高校生レベルでは通用した。
今回の都大会でも個人戦レベルで二位入賞者を出している。
秋には、その入賞者と全国大会に出る予定である。
「さて・・・算段だ」村田は考え始めた。
どうやって、光をレスリング場に引き込むのかである。
確かに「風紀を乱す」と、判断した光ではあるが、今は音楽部にいる。
音楽部に入る前の帰宅部の時のほうが、まだ引き込みやすかったかもしれない。
音楽部には、何しろ強面の祥子先生がいる。
柔道部前顧問や野球部前顧問を前にしても、一歩も後ろに引かなかったと聞いている。
そのため、柔道部前顧問や野球部前顧問のような正面突破は難しい。
「なんとか校則違反を作る」
「濡れ衣でもいい」
「理由は何でもいい、文書作成なんてお手の物だ」
「それを、校長に報告、学園追放、簡単なことじゃないか」
レスリング部顧問は、考えを決めた。
そして即座にレスリング部員高田を呼びつけたのである。




