第14話阿修羅と地蔵の会話
「えへへ、やっと出られた」
見事に寝呆けている光を見つめている影がある。
まるで古代の服を着た華奢な少年のように見える。
「まあ、また酔狂なことで」
今度は、少年の隣に袈裟を着た坊主が立った。
「うん、たまにはいいだろう、この時代もなかなか面白いかもしれない」
「それにこの家の血を継ぐ、唯一の男の子がちょっと心配でさ」
華奢な少年は隣の坊主を見た。
「うーん、確かに弱々しい、あまりにも体力がない」
「阿修羅が心配するのも、よくわかる」
坊主は少年を「阿修羅」と言う。
「どうかな、地蔵さん、また頼みがある」
阿修羅はどうやら「地蔵」と話をしているらしい。
「うん、またですか?」
地蔵は、ちょっと顔をしかめた。
「あまり、酷いことはしないからさ」阿修羅
「お手伝いですか?」地蔵
「うん、少しだけ・・・」
阿修羅が、はにかんだ様な顔になる。
「まあ、いいでしょう、くれぐれも自制を忘れず」地蔵
「まあ、この子の体力だと、自制もいらないかな、筋肉が持たない」阿修羅
「うん、それはそれで深刻ですねえ・・・」
「ただ、この子がどうあれ、今の世の糺すところはしっかりとお願いしますよ」地蔵
本当に不思議な会話だった。
光は寝ているだけで、何も聞いていなかった。
ただ、叔母さんと楓、春奈は夢の中で、しっかりと聞き取っていた。
翌朝、光は激しい蝉の声で目を覚ました。
まあ、杉並の家では、全く考えられないほど、やかましいことこの上ない。
いつものように、ヨタヨタと身体を起こすけれど、エアコンをビンビンに効かせたせいか、汗はかいていない。
ただ、光としては、久しぶりに血の通った人と同じ屋根の下で眠った安心感もあった。
その光が、ぼんやりしていると、部屋をノックされた。
楓である。
「もう、寝坊助、朝ごはんだから早く着替えて」
いきなり叱られてしまう。
楓には、子供の頃から叱られることが多かった。
これもおなじみであり、懐かしいものがある。
それでも、光にしては素早く着替え、食卓についた。
奈良の定番というか、日本の朝ごはんの定番が並んでいた。
すなわち、焼き魚、卵、漬物、煮物、味噌汁などである。
「光君、ほとんど朝ごはん食べてないだろうから、普通のにしたよ」
圭子叔母さんにはしっかり見抜かれている。
「せめてね、学校で倒れないぐらいには食べてね、パンでもいいからさ」楓
「それはお父さんがいるとかいないは、関係ない、心配だからね」
叔母さんは本当に心配そうな顔をする。
「それで、今日はどこかに行くの?」楓が聞いてきた。
「うーん・・・日曜日で観光客が多い東大寺は行かない、元興寺さんはちょっと寄って・・・あと奈良町少し散歩して、お昼ぐらいには帰ろうかな」
光は外を見ると、激しい蝉の声でわかるように、今日も炎天下になることは確定である。
とても、東大寺まで歩くことは無理だ。
「えーーー?お昼には帰っちゃうの?つまらない、せっかく逢えたのに」
まず楓が反発した。
「うん、そうだよ、もう少し奈良町を楽しんで欲しいなあ」
圭子叔母さんも引き止める。
「そうだ、あまり歩けないんだったら、奈良町でデートしようよ、あちこち案内するから」楓は腕をつかんだ。
「ああ、それがいいねえ、そうしなさい、若い人は若い人どうし」
圭子叔母さんの言葉で決定した。
同い年の従妹とデートすることになった。




