第137話クリスマスコンサートに悩む光
「うん、ありがとう」
ようやく光もお礼を言った。
どうしても「亀」なので、一歩遅れる。
「で、いつから東京にいるの?」
「住んでいるのは、まだ奈良?」
光にしては珍しい質問の連発である。
「ああ、ごめんなさい」
「東京は今年から、こっちの大学に入ったの」
「奈良の教会はまだあるし、今日はここのホテルのチャペルでコーラスのバイトなの」
「偶然だけどうれしいな」
ルシェールは少し顔を赤らめた。
もともと超美少女のルシェールが顔を赤らめると、本当に愛らしくなる。
晃子の焦りは、ますます増幅する。
「えへへ・・・」
ルシェールは顔を更に赤らめ、光を見つめた。
晃子の焦り鼓動が高まっている。
「実はね、光君を追って、東京に来たの」
「アパートも、近いところにした」
「それでね、頼みたいことがあるんだけど」
晃子にとって、容認できない言葉が続く。
しかし、「頼みたいこと」を聞くしかない。
そうしないと、話が前に進まない、「計画」などは、もっての外になった。
「あのね、都内なんだけどね、クリスマスコンサートに出てもらいたいの」
「ああ、できれば晃子さんとかも出てもらうと助かります」
「資金的には裕福な教会なので、出演料は期待していいですよ」
ルシェールは、そう言ってにっこりと笑った。
まるで大輪の薔薇のように輝いている。
「うーん・・・」
ここで晃子は美佳と真衣は顔を見合わせた。
晃子とて、この間のコンサート以来、スポンサーはない。
スポンサーだった超一流化粧品会社とは、完全に関係を切った。
そのため、クリスマスの予定はまだない。
そこで、「期待していいクリスマスコンサートの出演料」が手に入る。
晃子たちはプロの演奏家であり、まんざら悪くない話である。
それにターゲットの光つき、一緒に長時間練習となれば誘惑チャンスが増えるというものだ。
晃子もニンマリとして光を見た。
しかし、光の顔がどうにも浮かない。
それどころか腕を組んで考え込んでいる。
「ねえ?光君、出ようよ」
晃子が声をかける。
美佳と真衣も光の腕を引く。
ルシェールも心配そうな顔になってしまった。
じっと光を見ている。
「うーん・・・」
考え込んでいた光がやっと声を出した。
それでも、表情が浮かない。
「わかった」
ルシェールは光の顔を見た。
何か気づいたようである。
「要するにね、光君、コンサートには出たい」
「だけど、寒いからってこと?」
ルシェールは、光の性格を見抜いている。
晃子はルシェールを「当座の恋敵」との判定をしているが、さすが幼馴染、分析力には感心した。
「何だ、寒いだけ?それなら送り迎えするからさ」
「光君のバッハも聴きたいもの、一緒にやろうよ」
晃子はすでに出演を決めてしまった。
「いや、送り迎えは私」ルシェールは晃子の言葉をさえぎってしまう。
しかし、光は腕を組んだままである。
「わかった、何とかする」ようやく光が頷いた。
これで何とか話がついた。
既に夕方五時近く、光は、ただ、面倒なので決めてしまったのかもしれない。
晃子が言い張り、結局光の家には晃子が送ることになった。
「あのルシェールって、スタイルが良くて若いし可愛い、晃子も強敵ね」
晃子は別れ際の美佳と真衣の言葉にも、本当に腹が立っていた。




