第134話華奈に張り手をされる光
「それで、光君はどうしたいの?」
春奈は、一応光に尋ねてみた。
まあ、いい加減でひ弱な光ではあるが、時々予想外の動きをすることがある。
今回のホテル行きも、春奈は全く予想していなかった。
ただ、光が予想外の動きをする場合、「阿修羅の意思」が盛り込まれていることがある。
それについては、夏のコンサートまでの光の動きで、思い知っている。
「うーん・・・」
「寒いよねえ・・・」
光はしきりに首をかしげる。
光自身としては「嫌がっている」と、春奈は理解した。
「でもねえ・・・」
何故か光の目が途中から光出した。
これには、春奈も身構える。
「でもねえって・・・なあに?」
春奈は、今度は慎重である。
少なくとも、「キツイ尋問調」ではない。
「少し問題があるな」
「これはこれで・・・」
光の語調が変わった。
「また、頼むことになる」
「その時は・・・」
光は、真っ直ぐに春奈の顔を見た。
「あ・・・はい・・・」
春奈は、背筋を伸ばした。
これは、阿修羅本人が話している。
春奈は確信した。
「今度は・・・いったい?」
「誰が相手ですか?」
春奈の語調も変わった。
春奈の顔も真剣である。
「ああ、それは・・・」
光が言いかけた時だった。
玄関のチャイムが鳴った。
途端に光の目の光が消えた。
「おはようございます!」
「光さん、いますか?」
明るい少女の声が飛び込んできた。
「もう・・・」
「いいところだったのに・・・あの小娘・・・」
春奈は、いやいやながら立ち上がった。
光を見ると、いつもの通りぼんやりとしている。
目の光など、全くない。
「あの小娘のおかげで、阿修羅消えちゃったじゃない!」
ブツブツいいながら、玄関を開けた。
「わあ・・・春奈さん、おはようございます!」
「本当に暑いですねえ!」
春奈の「いやいやながら」など、全く考えない「小娘」華奈が立っている。
「ああ、華奈ちゃん、おはよう!今日も元気だねえ!」
内心は「いやいやながら」、表面は「にっこりと」華奈を家の中に招き入れる。
そんな春奈には、チラッと挨拶をしただけで、華奈はどんどんリビングに入っていく。
春奈は、あまりのあっけなさに呆れるが、華奈は全く気にしない。
そのまま、光の隣に座ってしまう。
「ねえ、光さん?」
「昨日来たけど、いなかったじゃない!」
「いったいどこに行っていたの!」
春奈の尋問もキツイが、華奈の尋問も変わらずキツイ。
体調が悪い上に、いきなり華奈にまで尋問をされ、光はうろたえている。
「えっと・・・」
光は、またオズオズと応えようとする。
ただ、その行き先は既に春奈が聞いたことである。
春奈は、同じことを聞きたくなかった。
少々の「大人げなさ」と、そのことを伝えたことによる光の被害などは、何も考えていない。
「あのね、華奈ちゃん、面倒だから言っちゃうけど」
春奈は、何より光のオズオズとした応え方が面倒だった。
そして華奈にとっても、光にとっても、「とんでもないこと」を言ってしまう。
「ああ、光君ね、昨日晃子さんたちとホテルに行ったんだって」
「それでね・・・」
春奈が、言いかけた時であった。
華奈は、その後の言葉など何も聞かない。
「パシン!」
そのまま、思いきり、光の頬を張ってしまう。
光もいきなりのことにポカンとなっている。
春奈も驚いてしまった。
しかし、その驚き以上に、華奈の顔は真っ赤になっている。
そのうえ、華奈は光に抱き付いてしまう。
ただ、抱き付きながら出てくる言葉には呆れてしまう。




