第133話春奈の光への「尋問」
「ホテルって何さ・・・」
春奈の脳裏には、まず、ホテルに伴う様々な情景が浮かんだ。
ホテルと言えば、宿泊施設である。
当たり前のこととして、ベッドがある。
光に異常な関心を寄せている晃子のことだ。
以前、晃子のマンションに光がホイホイと出かけてしまった際には、とんでもない事態が発生した。
春奈の分析としては、危険度ランク一位にも該当する。
しかし、目の前の光は、晃子たち三人の「お姉さんたち」とホテルのベッドで、アヤシイことを出来るはずがない。
とにかく体力は決定的に不足している。
ボクシング部や柔道部とのバトルも、勝利はともかく「稼働時間」そのものは、ごく僅かだった。
夏のコンサートの後は、疲労困憊、帰りのワンボックス車に乗り込む前に、実は寝ていた。
乗り込めたのも、本当は春奈が楓と協力して、ワンボックス車の中に「放り投げた」のである。
春奈としては、光に三人を相手にする体力などないと、はなから見切っている。
次にホテルと言えば、食事になる。
ただ、ホテルの食事と言えば、ある程度の量がある。
普段の食事でも、春奈に怒られながら必死に食べている光だ。
それも量的には、小学生レベルの量。
それすらモタモタ食べている光が、全部食べられるわけがないし、食べ過ぎは考えられない。
それに晃子が連れていくホテルなら、一応「高級」が想定される。
まず間違っても、食中毒は考えられない。
危険度ランクも、ほとんどない。
その判定により、春奈の脳裏から、食事による体調の悪さは削除された。
それ以外には・・・春奈も考えた。
ありえないけれど、「ホテルのプール」だった。
三人のきれいな「お姉さんたち」と光がプールサイドで横たわる姿を思い浮かべた。
しかし、その「思い浮かべ」は、一瞬にして消え去った。
まるで運動に関心がない光が、まず間違ってもプールで泳ぐなんて、考えられない。
春奈が少し気圧されるほど晃子は、セクシーであるけれど、そもそも光が水泳パンツなどはかないと断定した。
「そんな面倒なこと、光君がするわけない」
様々な原因を春奈は思い浮かべるけれど、どうにも光の体調の悪さをどうしても特定できない。
ただ、それ以上に春奈は腹が立った。
自分のいない間に、「勝手に」お姉さんたちとホテルに出かけたことである。
「で、ホテルで何をしたの?」
「ベッド?食事?プール?」
春奈は、光に対してまるで、刑事の尋問調である。
特に「ベッド」はありえないと思ったけれど、口調はまさに怒っている。
この春奈の「尋問調」には、さすがにいい加減な光も反応した。
「えっと・・・」
春奈は、その光の反応の弱さに腹が立つが、回答は待たなければならない。
「・・・ああ、お茶を飲んでいたら、人に逢いました」
光は春奈の権幕にかなり気圧されている。
「え?人?」
「男の人?女の人?」
ここでも春奈のケンマクは収まらない。
ただ、光としては、どうして春奈が怒っているのか、さっぱり見当がつかない。
「あ、女の人です」
「とても綺麗な人でした」
いつものごとく、オズオズとした光の応えである。
「綺麗な女の人?」
ここで春奈は首をかしげた。
晃子が、光を狙っていることは、よくわかっている。
その晃子が、光に「綺麗な人」と逢わせるはずがない。
晃子にとって「ライバル」は、一人でも除去したいはずである。
「はい、日本人じゃなくて」
「フランスのルシェールって人、十八歳ぐらいかな、ちょっとした知りあいでした」
光は春奈の顔を見た。
こうなると春奈としても、キツイ尋問調は続けにくい。
素直に光の次の言葉を待った。
「クリスマスの日に、コンサートの指揮を頼まれたんです」
やっと光から、多少理解しやすい答えが帰って来た。
あまりにも余計な「ホテルの危険」を考えていた春奈は、少し安心した。
しかし、それがどうして光の体調の悪さにつながるのか、春奈には理解できない。
「だけど・・・そういう寒い時期は、すぐに風邪ひくし、外に出たくないし・・・」
「それでも強引で断りづらくなって、気が重たくて・・・」
光は本当に顔を蒼くしてブツブツと言っている。
この言葉に、春奈はあきれてしまった。
光は、要するに寒いから外には出たくない、それで悩んでいただけだったのである。
ただ、このクリスマスコンサートが、後々とんでもない事態を巻き起こすことになる。




