第13話自覚症状がない光
家に戻ると、圭子叔母さんが玄関で待っていた。
「大丈夫だった?」
しかし、心配した声を出したのは、それだけ。
光の顔を見るなり、表情が変わった。
まず光を見て、春奈、楓を見た。
そして光を再び見て、不思議なことを言う。
「まぁーーー!出てきちゃったんですか?」
光には、さっぱりわからない話である。
「出てきちゃったって・・・何ですか?」
光は気になって尋ねる。
「うーん・・・一言では言えないよ、でも、光君が心配することはないかな」
圭子叔母さんは、ますます不思議なことを言う。
「大丈夫だよ、光君が気にすることはないから、それに、わからないことは気にしなくていいよ」春奈先生も不思議なことを言う。
「うん、学校の勉強とは違うから、わからなくても気にしない」
楓には痛いところを突かれてしまった。
確かに先週の英語テストはわからないことだらけであった。
あまりの勉強不足で、反省この上ない光である。
「さあ、久しぶりに歩いて疲れたでしょう」
「お風呂したら、ごはんにしますよ」
圭子叔母さんが、ようやく話題を変えた。
光はホッとした。
阿修羅となんとなく話をしてしまったことは、覚えている。
ただ、それは炎天下歩き続けたことからの幻覚以外にはありえないと思った。
興福寺を出てから、多少足が軽くなったような気がしたが、それは「気がする」程度で大したことはないと思う。
それより何より、汗ばんだ身体を洗いたかった。
風呂に入って身体を洗い、鏡で自分を見ても、何一つ変わることはない。
相変わらず腕も脚も細い、弱々しい身体である。
変わっているのは、叔母さんたちの反応である。
炎天下の中、どうかしちゃったのは、叔母さんや春奈先生、楓だと思った。
風呂から出て、夕ご飯となった。
春奈先生は、自分の家で食べるとのこと。
食卓の上には、奈良に来た時のいつもの料理が並ぶ。
学校や日頃の生活の話になって、特にストレスを感じることはなかった。
いつもの、奈良に来た時と同じ状態である。
「子供の頃は、一緒の部屋で寝てもらったけれど」
今回は、楓と違う部屋で寝るようである。
確かに同い年とはいえ、お互い十六歳である。
一緒の部屋で寝るには、タメライがある。
寝る前に、楓に声をかけられた。
「いい?足がつったら大声だしてね」
「え?」光
「そうしたら、春奈さんも駆けつけるから」
とんでもないことである。
光は十六歳である。
足がつったぐらいで、同い年の従妹と先生に駆けつけられたら、恥ずかしいなんてもんじゃない。
「大丈夫、心配ないって」
光は、精一杯断った。
そもそも、大きなお世話だと思う。
父と同じように出張中の叔父さんの部屋で眠ることになった。
確かに疲れていた。
瞼が閉じるのに三十秒かからなかった。
本当に朝まで一直線、まるで夢など見なかった。




