第116話コンサートのフィナーレとアンコール
「うわっ!すごっ!」
ホールにいる全員が息を飲んだ。
ブラームス第二交響曲の第四楽章のフィナーレにはいった。
素晴らしい疾走感でクライマックスに近づいていく。
聴衆の中には感動のあまり既に泣き出している人もいる。
誰も涙を拭こうともしない。
少しでも動きたくない、とにかく光の音楽を聞き逃せない。
そして最後にブラスが輝いた。
まるで神の声のような力強さがフィナーレを包み込み音楽全体が眩い光を放った。
光はその指揮棒を高く上げた。
そしてその動きを止めた。
一瞬間があった。
そしてホール全体が地響きのような拍手と歓声に包まれた。
聴衆は全員立ち上がった。
全員が拍手とブラボーを叫んでいる。
光は肩で息をしている。
そして、ゆっくりと指揮台を降りた。
「危ない!」
降りるところで、光は少しよろめいた。
華奈がさっと立って光を支える。
華奈も泣き出している。
光は聴衆に深くお辞儀をした。
再び聴衆全員の拍手とブラボーに包まれる。
光の目に最前列に座る圭子と楓、春奈が映った。
光は少しだけ、会釈をした。
「もう・・・すごかったね・・・」楓
「うん、少しよろけたけど・・・華奈ちゃんがいてよかった」春奈
「あの演奏してあそこで、こけられたら恥ずかしいもの」楓
「光君、突然頑張ったから身体にも疲れがあるの、そういうこと言うんじゃないよ」
「本当にお母さんが生きていれば、どれ程喜ぶか・・・」
圭子は泣き出している。
光は何度も音楽部員を立たせ、聴衆の拍手に応えた。
そして、舞台の袖口に姿を消した。
しかしアンコールの声が鳴りやまない。
三回ほどステージと袖口を行き戻りして聴衆の拍手に応えた後、晃子を伴って再びステージに戻った。
舞台の袖口からピアノが運び込まれた。
アンコールを演奏するためである。
アンコールは一曲の予定。
有名ヴァイオリニストに敬意を示して、一曲だけを練習していた。
アンコール曲として、バッハのヴァイオリン協奏曲第一番第二楽章が始まった。
ブラームスの輝かしい演奏の後のバッハは、より一層心に沁みる。
「晃子のバッハもいいなあ・・・」
「本当に自然に弾いている」
「光君はピアノ弾きながら指揮なんだ」
「あのピアノも上手だなあ」
またしても聴衆全体が音楽に惹き込まれてしまう。
「ピアノだけでも聴いてみたいな」
「でも、一曲しか準備していないって言っていた」
「いやーーいいバッハだなあ」
「沁みるよね」
「もっと聴いていたいなあ・・・」
いろんな褒め称える声の中、バッハが終わってしまった。
再び聴衆全員が立ち上がっての拍手とブラボーの嵐になった。




