第11話阿修羅との会話
「はぁー?意味わかんないよ」
光は阿修羅の言うことが、全く意味がわからない。
「まあいいや、意味は最後に教えるよ、とにかく面倒を見るからさ」
「時々は外を歩きたいしね」
阿修羅は、ますます不思議なことを言う。
「面倒って何さ?」
「外を歩くって仏像が外歩いてどうするんだ?」
光はどうしてもわからない。
「まあ、それはこれからわかる、君はあまり気にしないでいいよ」
阿修羅はそう言って合掌した。
すると、途端に阿修羅の動きが止まった。
顔も三つ、手もいつもの六本の形になっている。
「え?」
「どういうこと?」
光は結局何もわからなかった。
炎天下の中、歩いたことにより、幻覚を見ただけだと思った。
ただ、そういう場合はいつもの言葉が役に立つ。
「まあ、いいや」である。
光は、結局何も考えもせず、再び春奈先生と楓を伴って興福寺国宝館を出ようとする。
「あ、ちょっと待って」
国宝館を出ようとすると、春奈先生に呼び止められた。
キョトンとする光をそのままに、春奈先生は楓が売店に入っていく。
そして、すぐに出て来た。
「はい、ストラップとメモ帳、その他いろんな細かいグッズ、もちろんTシャツもね」
春奈先生に渡されてしまう。
「えーーー?悪いですよ」
光は少し困るけれど、春奈先生は、ケラケラ笑っているだけである。
「まあ、しょうがないよ、光君に似合うしさ」
楓も笑っている。
「それにさ」
春奈先生の目の色が深くなった。
そして光った。
「さっきまで阿修羅と話していたでしょ、聞いていたよ」
春奈先生はウィンクをしてきた。
ちょっと色っぽかった。
光はゾクッとしてしまう。
さっきとは別の意味である。
「さあ?これからどうする?」
国宝館を出た所で、楓が尋ねてきた。
既に当初の目的の阿修羅見物は果たしている。
問題は、この炎天下で歩き続けるのか、それとも大人しく奈良町まで帰るのか、なのである。
春奈先生にしろ、楓にしろ、光の答えは後者のほうだと確信していた。
光がこの炎天下の中、余計なことをするわけがないと思っている。
「いや、せっかく奈良に来たんだから歩くことにする」
しかし、返って来た答えは全く予想外である。
「マジ?」楓
「大丈夫?」春奈
二人ともまるで信じられない顔をしている。
「うん、マジだし、大丈夫さ」
そういって光は歩き出してしまう。
笑顔さえ見せている。




