第105話コンサートの進行と晃子と楓の落胆
しかし・・・
「あの・・・一楽章は少し速めにします」
光の言葉はそれだけだった。
晃子としては、「またしても・・」になった。
そして「この子・・・何?」となってしまい、次の作戦を考える必要に迫られている。
ブザーが鳴って光と晃子がステージに登場してきた。
「何、あの人・・・」
楓は晃子の真紅のドレスに注目する。
「うん、スタイルもいいし、きれいねえ・・・」
圭子は、ウットリ気味になる。
「高校生の音楽部のコンサートで、真紅の胸あきドレス・・・派手だけど似合っている」春奈は驚き、頷いている。
「胸を強調し過ぎ!」
楓は怒っている。
「そう?きれいだよ」
圭子は取り合わない、むしろ笑っている。
「うん、華やかな曲は、華やかなドレスがいいの」
春奈も全く楓に取り合わない。
「きっと華奈ちゃんの言う通り、光君を誘惑したいのかな」楓
「胸で?」圭子
「うん、特に男子学生なんて、みんな顔色変わっているよ」
楓はホール内の男子学生を見回す。
男子学生たちは確かに、身を乗り出すように晃子を見ている。
「うーん・・・どうかなあ・・・」
圭子は首をかしげる。
「うん、大丈夫だよ、光君は胸に興味ないかも」春奈
「そう?大丈夫?」
楓は春奈の言葉にホッとする。
何とも心温まるフォローと感じたし、母も春奈も素晴らしい人間と感じている。
「それにあったとしてもさ・・・」
しかし、母圭子は意味ありげな顔をする。
「あったとしても・・・何さ・・・」
楓からフォローの効果がこぼれ出している。
「楓ちゃんは従妹だしさ・・・」
春奈は、無神経にも追い打ちをかけた。
「だしさって・・・他にも?」
楓は不吉な予感にとらわれた。
「・・・楓はまだまだ子供、形も大きさも・・・」
母圭子は自分の胸を張った。
「もう少しね、私の高校生の時よりないもの」
春奈も同様に胸を張る。
結局、母圭子と春奈は、楓の一番自信の無いことを、無慈悲にも言い切ってしまうのであった。
光の言葉通り、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第二番の一楽章は、少し速めに始まった。
「うん、歯切れがいい」
「晃子も素直に弾いているなあ、珍しい」
「聞かせるところは、タップリだし、テンポは速めだけど優雅だなあ」
「もう・・・少し黙っていて!」
「そう、聞き逃せない」
「聞いていたい、これならずっと」
演奏を聴きながら感想を言っていた音楽家集団の言葉は止まってしまった。
その他の聴衆は、既に何も口を開かない。
そもそも魔笛序曲が始まった時から、光の音楽に惹きこまれているのである。




