第103話コンサート開演とそれぞれの緊張
開演ブザーが鳴った。
「それでは、光君、お願いします」
出番を告げる祥子の声も緊張している。
袖口に立つ校長と坂口も光を見つめている。
「あ・・・はい・・・」
光は何も変わらない。
いつもの弱々しい返事。
ただ、表情がいつになく楽しそうだ
心配そうに見ている三人に会釈をして、ステージに出ていく。
「わっ・・・すご・・・」
光がステージに姿を見せた途端、ものすごい拍手になった。
「こんな拍手、私の時はなかった」
祥子も驚いている。
「ああ・・・けっこうね、光君の音楽室の練習、話題となっていましてね、この学園だけでなく、いろんな他校の生徒さんも来られています」
校長も嬉しそうな顔をしている。
祥子は、その胸を抑えている。
「はい、私も音大の教授とか、プロ演奏家の仲間に録音を送ったんですが、もう問い合わせが多くて、是非聞きたいと、私もチケットを多少余分に持っていましたが足りなくなってしまって・・・」
「ピアノ科、指揮科、弦楽の人達、たくさん来ています」
「あの人たちには、チケット渡してないから、自分で買ったのかな」
「それにしても、高校生のアマチュアのコンサートのチケットをプロが買うなんて、聞いたことがありません」
いつの間にか晃子も隣に立っている。
「光君は、それに初のステージですし・・・」
晃子の顔が赤くなっている。
晃子も光の初ステージに、緊張しているようだ。
圭子と楓、春奈は客席の最前列に座っている。
「まあ、どうなることやら・・・でも・・・」
圭子は後ろの客席を見た。
圭子も、既に満員となったホールに驚いている。
「でもねえ・・・光君、大丈夫かなあ・・・」
楓は不安を隠し切れない。
「あのいい加減で弱々しく、逃げ足だけは速い光君だよ」
「朝起きることも着替えも、満足に出来ない、それも高校二年生になってだよ・・・」
「ヨタヨタ歩いて指揮台にのぼる時にコケたら大笑いだよ・・・って身内だから恥ずかしい」
楓はそんなことを言って心配になっている。
「ああ、そうなったら・・・」
春奈が笑った。
「うん」楓
「華奈ちゃんに助けてもらうってどう?自称許嫁だし」春奈
「え?許嫁なんてまだだって!そんなことを認めたら、華奈ちゃんがつけあがる」楓
「何言っているの、従妹が嫉妬してどうするの」春奈
「いや従妹だから心配でしょうがないの」楓
楓と春奈は、「どうでもいいこと」で攻防戦を行っている。
「ほろほら、そろそろ静かにしなさい、出てくるみたいだよ」
圭子の諌めで、やっと攻防戦が停止した。
確かに袖口に光の姿が見えた。
ようやく光が出てくるようである。
「あっ・・・出てきちゃった・・・」楓
「うん、もの凄い拍手」
春奈は客席全体からの、大音量となった拍手に驚いている。
「でもさ、かっこいい、光君」圭子
「あれ、なんかニコニコしている」春奈
「ことの重大性がわかっていないに過ぎない」楓
「でも、ちゃんと歩いているよ」圭子
「お辞儀もきれい・・・なんか・・・いいなあ・・・」春奈
「わっ・・・コケないでのぼっちゃった」楓
光は三人の心配を「裏切り」、すんなりと指揮台にのぼった。
「さて・・・どうなることやら・・・」
すると、笑っていた圭子の顔が厳しくなった。
「う・・・」
圭子の顔が厳しくなると同時に、袖口で光のステージへの歩みを見ていた坂口の携帯が突然光った。
刑事からのメールらしい。
「会長が、コンサート会場に向かいました」
「それから、かなりの数の街宣車も同時にコンサート会場に向かっています」
「極秘情報ですが、武器弾薬、爆薬の所持数は、その業界でもトップクラスです」
坂口の表情が一変した。




