第102話会長の怒りと極秘の男への指示
マンションの晃子の部屋では、会長が動き回っている。
「今日は晃子がコンサートに出る日か・・・」
「そろそろ開演か・・・」
「まあ、そんなことは、どうでもいいが」
「おかしい・・・」
しきりに同じことをつぶやいている。
「晃子は戻って来なかった」
「まあ、監視カメラのことを言ったんだから、戻りづらいのはわかるが」
「それにしても、尾行が巻かれるなんて、今までの女にはなかった」
「晃子の惚れ癖には、ヘキエキしていたから、ここで監視カメラの話をして・・・どうせ逃げるだろうから・・・後は始末するつもりだったが・・・」
「マスコミに垂れ込まれても、自分から監視カメラのことは言わんだろう」
「そんなことを言ったら、晃子自身のイメージも悪くなる・・・」
「ただ、それはいいんだけど・・・」
会長は、しきりにピアノのあちこちに、手を触れている。
「うーん、何故鍵が無い」
会長はピアノの中に隠してあった鍵を探しているようだ。
「晃子には、教えていない」
「晃子は自らピアノを弾くことはない」
「だから晃子が鍵のことなど知らんだろう」
「しかし、あの鍵は、この部屋になければならない」
「あの日にもう少ししっかり探せばよかった・・・我ながらウカツだった」
会長はピアノの下を見た。
しかし、ピアノの下に鍵は落ちていない。
会長の顔に焦りが浮かんだ。
「一体・・・何故ないんだ」
ピアノの下のカーペットを捲ってみた。
コンクリートの床に鍵穴がある。
「あの鍵が見つからないと・・・」
「もし、誰かに持ち去られていると・・・」
「この中が見られると危険だ」
会長は必死に考えた。
「う・・・晃子のやつ、高校生のガキと三十分だけ練習と言っていた」
「そのガキが、ピアノの調律が変とか・・・」
「もしや・・・その時に・・・」
会長の顔が、突然、真っ赤になった。
そして、いきなり携帯が光る。
「こんな時に・・・」
会長は面倒ながら携帯を見ると・・・
「何?」
携帯の画面には、シャンデリア下の画面が映し出されている。
そして、映っているのは、晃子と男子高校生が一人。
「あの時は見ようにも真っ暗だった、何故、今見える・・・」
会長は不審に思いながら、画面を見続ける。
演奏の途中から、その男子高校生がキョロキョロし始めた。
そして、突然、ピアノの中に手を伸ばす。
何か光るものを手にしている。
会長は、即座に決断した。
携帯から「極秘の男」に電話をかけた。
「あの高校生のガキから鍵を奪い取れ」
「多少手荒いことをしてもかまわん」
「晃子と一緒にシバき上げる」
「面倒になったら、会場まるごと爆破でもいい」
「タイミングは、俺が指示する」
「ただ、絶対に俺の名前は出すな」
そこまで「極秘の男」に伝えると、会長は晃子のマンションを出た。
晃子のマネージャーが待っていた。
「出向きますか」
晃子の女性マネージャーが慎重に聞いて来た。
「うるせえ!馬鹿野郎!」
会長は、マネージャーの頬を思いっきり張った。
マネージャーの唇が切れて出血した。
会長を乗せた黒ベンツは、マネージャーの運転でコンサート会場に向かった。
会長の手には、スタンガンが握られている。




