第1話保健室の春奈先生
「うーん・・・」
光はようやくその目を開けた。
まだ頭がぼんやりとしている。
「また、保健室か」
炎天下の体育の授業中、あまりの暑さに頭がクラクラとしていたことまでは覚えている。
それで倒れてしまい、保健室まで運ばれたのだと思う。
「いつものことだ」
光は、もともと身体が華奢である。
光自身が、高校二年生としては体力が不足していることを自覚している。
体育の時間中だけではない、夏の暑い日は野外を歩くことは苦手である。
何しろ、すぐに頭がクラクラとして、気持ちが悪くなる。
ただ、そのひ弱さは夏だけに限ったことではない。
冬の寒い日も、外に出ているとすぐに風邪をひく。
そして、その風邪は、なかなか治ることが無い。
そのため、一年の半分はマスクをしている状態である。
「うん、目が覚めた?光君」
いつもの通り、保健室の春奈先生の声が聞こえて来た。
光が今年から、倒れるたびに「お世話」になっている先生である。
年齢は、二五歳前後とのこと。
スタイルも良く、顔も童顔、美形であり、特に男子高校生の憧れの的である。
「はい、なんとか」
光はぼんやりとした頭のなか、いつもの通り「弱々しい」口調で応えた。
光自身も春奈先生に憧れはあるけれど、何しろ何回お世話になったか数えきれない。
こんな弱々しい自分では恥ずかし過ぎて、話をするにも腰が引けてしまう。
「うーん、しょうがないなあ・・・」
「これほど、倒れちゃう男の子初めて」
「まず、朝ごはんとか、しっかり食べている?」
またいつもの通り、春奈先生の尋問である。
アクセントに、少し関西なまりが混じる。
「えっと・・・」
叱られると思い、答えをためらった。
何しろ、「朝ごはん」どころか、夕ご飯も残した。
特に最近は暑い日が続き、食欲が無い。
「すみません、朝ごはん寝坊して・・・」
答えは朝ごはんだけに限定した。
それ以上の答えは、はばかられたからである。
「しょうがないなあ・・・」
「あれ程、しっかり食べてって言ったのに」
春奈先生に、また叱られてしまった。
「ごめんなさい」
ここは、素直に謝るしかないと思った。
体力がもともとない上に、食事をしていないのでは、この炎天下の夏の体育の授業で倒れるのは当たり前である。
「とにかく、何かお腹に入れないとね」
春奈先生は、ちょっと思案した。
「まあ、しょうがないか・・・」
そう言って、保健室の中にある小さな冷蔵庫を開けた。
「身体起こせる?」
春奈先生は優しい顔になった。
光としてはこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない、多少ふらつきながら、身体を起こした。
「今日は特別だよ」
目の前に食べ物が置かれた。