第八話
表示されている内容に問題ないことを確認した男性職員は手続きを始めた。
「そんなに珍しいですか? 元々持っていたら即納品することってあると思うんですけど……」
手持ちぶさただったヤマトはなにか変だっただろうかと作業中の男性職員に質問をする。
「えぇ、あまりいませんねえ。素材を持って歩くのは大変なので依頼のためや冒険から帰ってきたばかりなどの場合以外には必要最低限の持ち物しか持っていないのが普通だと思いますよ」
話をしながらも、テキパキと仕事を進めていく男性職員。
男性職員の話から、ヤマトは改めて自分がアイテムを格納しておけるストレージがあることがどれだけチートなことなのかを理解していた。
「しかし、これだけの数を持ち歩けるということはヤマトさんのカバンはマジックバッグなのでしょうか?」
牙といえどもニ十本となればかなりの質量であるため、男性職員は推測したことを好奇心から質問する。
「いや、まあそのへんは、ね?」
そういったことは周囲に喧伝しないほうがいいですよね? という風を装ってヤマトは男性職員に意味ありげなウインクをした。
「……あー、これは失礼しました。あまり手の内はさらさないほうがいいですよね。私の失態です、申し訳ありません」
安易に探りを入れてしまったことは良くないと反省した男性職員は素直に頭を下げた。
「いえいえ、気にしないで下さい。それより、牙の品質は大丈夫ですか?」
ヤマトはこれ以上カバンについて話すのは良くないと考え、話を逸らすために納品物についての話に切り替える。
「えぇ、もちろんです! 薬草もそうでしたが、牙も傷がなく高い品質です。どうやって集めたのか教えてもらいたいほどですよ。……いや、聞かないので安心して下さいね」
男性職員は先ほどの失言を思い出して、慌てたように一言付け加えた。
「そう言ってもらえてよかったです。取り直しなんてことになったら、また時間がかかってしまいますからね」
穏やかな口調でヤマトは苦笑しながら返事をした。
「――さて、完了しました。こちらが報酬になります。クエスト用紙に記載してあった満額の支払いになりますので、金貨二十枚ですね」
小さな布袋に入った報酬を受けとったヤマトはそれをカバンにしまっていく。
「それじゃあ、薬草も納品したいんですけどいいですか?」
「はい、どうぞお出し下さい」
昨日ヤマトが持ってきた薬草の品質を覚えている男性職員は、歓迎している様子だった。薬草が不足しているというのは本当だということがわかる。
「ほほう、今日も昨日と変わらず良い物ですね。こちらも昨日と同じ金額をお支払いできます。カードの処理をしてっと……」
ヤマトが提出したいくつかの薬草の一つを手に取った男性職員は嬉しそうに品質を見極めている。その後、ヤマトのカードデータの更新を行っていく。
一通り処理を終えると、カードと報酬が小さなトレーにのってカウンターに載せられる。
「おめでとうございます。ランクアップになります」
男性職員は笑顔で祝いの言葉をヤマトへと向けた。カードと報酬を受け取っていた当のヤマトは一瞬なんのことかと驚いてから、すぐに思い出す。
「あー、昨日言ってましたね。ということはEランクということですか?」
ヤマトは自分のランクに頓着していなかったため、そんなこともあったな程度に思っていた。
「えぇ、これでDランクのクエストまで受けられるようになりました。今後もよろしくお願いします」
ランクに頓着せず、これだけ真摯にクエストをこなすヤマトに、男性職員は彼が有望な冒険者になると感じていた。
「ありがとうございます。クエストの幅が広がるのはよかったです」
冒険者の中にはランクに固執する者もいるなか、ヤマトの反応は大物感が漂っていた。
「そうですね、上のランクになると討伐クエストや護衛クエストなどもありますので、そちらは報酬もいいですよ」
「なるほど、討伐クエストか……」
討伐クエストに関してはヤマトも興味を持ったが、護衛クエストに関しては相手があることなのであまり興味をひかれなかった。
「色々ありがとうございました。じゃあ行きますね、そろそろ装備も新調したいので」
ヤマトの今の装備は初期のショートソード。
耐久度は魔力で回復できるため、宿で泊まっている間に回復しておいた。しかし、強いモンスターと戦う際にこのままでは危険との判断だった。
「武器屋と防具屋ならギルドを出て正面の通りを真っすぐいったところにあります。どちらもなかなか良い品ぞろえなので、良い買い物ができると思いますよ」
「ありがとうございます。どこにあるか探そうと思っていたので助かりました。それでは、また」
聞いてはいなかったが、自ら情報提供をしてくれたことにヤマトは素直に感謝し頭を下げて、冒険者ギルドをあとにした。
命を張って戦っているせいか粗暴な冒険者もいる中、ヤマトは物腰低く言葉遣いも礼儀正しかったことでギルド職員たちに好感を抱かせた。彼らは自然と笑顔になって見送っていた。
「……親切な人だったなぁ。さて、はじまりの街でどこまでの装備が売ってるかな?」
人の行き交う街中を歩くヤマトはそう呟きながら教えてもらった通りを進み、まずは武器屋へと向かう。
しばらく進んでいくと、武器のマークの看板が飾られている店を発見する。おそらく冒険者であろう客が出入りしているのを見ると、ここが紹介された武器屋なのだろうとヤマトは頷いて店に入っていく。
「へい、いらっしゃい!」
まるで八百屋のような調子で店員が客に対して声をかけている。重量のある武器を扱うのに十分な筋肉をしている坊主で浅黒い肌の店員は歯だけは異様に真っ白でキラリと光らせていた。
あまりのインパクトに呆気にとられるヤマトだったが、呆然と立っていては怪しいため、気を取り直して並んでいる武器を眺めていく。
「十レベルで装備できる武器はっと……」
ゲームの世界だった頃のこの世界の武器はレベルがあがるごとに装備可能な武器が増えていく。
それが今でも同じ状態なのかを確認するため、あえて少し上のレベルの武器をヤマトは手に取る。
「あの、すいません。刀身を見ても構いませんか?」
勝手に抜いてはそれこそ暴漢と間違われても仕方ないため、ヤマトは事前に店員に確認をとることにする。
「ん? あぁ、振り回したりしなければ構わねーよ! 気にいったのがあったら言ってくんな!」
相変わらず光り輝く歯を見せつけつつの店員の返事に礼を言うように頭を下げてから、ヤマトは十五レベルから装備できる剣を手に取る。武器の名前はバスタードソード。
「――持てるけど、やっぱり重いな」
絶対に装備できないとは言わないが、この剣を持って自由自在に戦うのは難しいため、刀身をしまうと棚に戻し別の剣を見ていく。
「これならいいかな?」
店内を色々見て回って次に手にした剣は十レベルで装備できるアイアンソード。おそらく鉄でできていると思われる剣だったが、こちらは手に持っても極端な重さは感じず、すんなりと手に馴染んだ。
「これでいいな。――すいません、この剣を下さい」
「お! 気に入ったのが見つかったか!」
ヤマトは先ほどの店員に話しかけ会計を進めていく。
最初に手にした剣、そして購入を決めた剣――どちらも手にとることでそのステータスを見ることができたため、装備可能レベルを判断することができていた。
槍や短剣、弓に魔具などどんな武器も使いこなすヤマトが他にも装備できる武器は売っていたが、装備には熟練度という装備に対する理解度がある。同じ武器を使い続けることで武器の性能を引き出せるようになるため、ヤマトはあえて同じ種類の長剣以外は選択肢になかった。
初心者は他の武器にすぐ浮気しがちだが、一つを極めていくのがベテランプレイヤーのスタイルだった。
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