第七話
翌朝
朝食を終えたヤマトは宿をチェックアウトして、森の中にいた。
「さて、今日もここらでレベル上げと薬草集めをやっておこうか」
スキルを使ったうえでの動きに慣れていくこと、そして敵の動きに慣れていくこと、それと安定した収入源確保ということで昨日と同じメニューで動いていく。
レベル上げに関しては、モンスターを乱獲することであっという間に十レベルにあがり、片手剣の新しいスキルを覚えていた。
「ダブルスラッシュか……失敗すると隙が大きくなるけど、威力はスラッシュの倍になる技」
名前のとおり二連撃のスラッシュだったが、システムサポートが入るためただ二回使うよりも隙は小さく命中率も高かった。
ただ、一連の動作で二回攻撃を繰り出してしまうため、回避されると姿勢が崩れて攻撃を受けやすくなってしまう。
「相手の動きを見極めながら使わないと……」
ヤマトは新たなスキルを覚えてから何度かモンスター相手に練習していたが、どうも勝手に二連撃出るという動きがしっくりこなかった。
「まあ、徐々に慣れるしかないかな」
この辺りのモンスターのレベルではそれ以降はヤマトのレベルはあがらず、ダブルスラッシュの練習と薬草集めに終始することになる。
朝から活動していたため、昼過ぎには街に戻ることにしたヤマト。
「リアルの身体よりも動きやすいけど、やっぱり疲労はあるなあ」
半日ずっと戦闘や素材採集をしていたため、ヤマトは多少の疲労感を覚えていた。身体をほぐすように動かしながら歩く。
「さて、なにはともあれまずは金だな」
ヤマトはその足で真っすぐ冒険者ギルドへと向かうことにする。
ギルド内には相変わらず昼間でも冒険者がたむろしており、これから挑むクエストの話や討伐対象のモンスターの話をしているようだった。
「何か俺が受けられる依頼があればいいんだけど……」
薬草を納品する前に今日もクエストボードと呼ばれる掲示板を確認する。ここには様々な依頼が貼りだされていた。
「俺のランクは一番下だから受けられそうなのは……モンスターの討伐依頼などは上のランクだけか、素材集めなら……デビルウルフの牙、ニ十本!」
一番下のFランクのヤマトが受けられるのは一つ上のEランクのクエストまでだが、その中にデビルウルフの牙の納品クエストがあった。
クエストボードの下には“常設クエスト以外の受注したいクエストがあった場合は用紙を剥がしてお持ち下さい”と記されていたため、その用紙を剥がして受付に持っていく。
「すいません、このクエストを受注したいのですが」
受付をする女性職員はたまたまだったが昨日と同じ女性職員だった。
「あ、あなたは昨日の……ヤマトさんでしたね! 昨日は名乗らずに失礼しました、私の名前はレスカと申します。よろしくお願いします!」
顔を上げた彼女は自分だけ名前を知っていることに思い当たり、レスカはふわりと笑顔で自己紹介をする。
「レスカさんですね。改めてよろしくお願いします。それで、このクエストを受けたいのですが」
ヤマトは笑顔で挨拶を返すと、クエストの用紙をレスカに提出する。
「そちらの依頼ですね! ……はい、こちらなら受注可能ですよ。デビルウルフというのは森にいるモンスターなのですが……」
用紙を確認して説明を始めようとするレスカに対して、ヤマトは手を前に出してそれを止めた。
「……えっと?」
どうしたのかとレスカはきょとんとした表情で首を傾げた。
「そのデビルウルフの牙なんですが、ちょうどニ十本持っているんです」
困ったように微笑みながらヤマトはそう告げる。牙の収集方法に関しては問われていないため、事前に持っていたものを納品しても問題ないはずだった。
「ほ、本当ですか! それなら、受注後納品すればクエスト完了ですね」
口元に手をあてたレスカは登録して二日目のヤマトがデビルウルフの牙をそれだけの量持っていることに驚いていた。しかし、冷静さを取り戻してなんとか受付嬢としての仕事も果たす。
「はい、ここに出しても大丈夫ですか?」
受注後、即納品というパターンへの対処がどうなるか知らないヤマトはうかがうような表情でカバンに手を入れながら質問した。
「えっと、ではまずクエストの受注手続きをお願いできますか? カードの提示を……はい、ありがとうございます!」
レスカはヤマトから受け取った用紙とカードを使って、クエスト受注を行っていく。こちらも魔道具を使っており、あっという間に完了した。
「それでは、あちらの納品カウンターで納品をお願いします」
ゆったりとした手つきでレスカが示したのは昨日薬草の納品を行ったカウンターで、今日も昨日と同じ男性職員が待機していた。
「了解です。ありがとうございました」
感謝の気持ちを込めた笑顔を見せたヤマトは礼を言うとすぐに納品カウンターへと向かう。こちらに関しては勝手がわかっているため、迷いなく向かうことができた。
「すいません、納品をしたいんですが」
「はい。……あっ、昨日も来られた方ですね。本日も薬草でしょうか?」
昨日の今日だったが、薬草の納品ならありえない話でもないと男性職員が話を振った。
「はい。――あ、いや、その薬草もあるんですけど、別に受けたクエストの納品もしたいんですが」
なるほどと理解した男性職員は右手を差し出す。
「それでは、カードの提示と納品する素材をカウンターにお出し下さい。まずは受注されたクエストのほうから処理しましょう」
ヤマトは言われるままにデビルウルフの牙をニ十本、カウンターに並べていく。やや赤みがかった牙がデビルウルフのものであることを物語っていた。
「……はい、デビルウルフの牙ニ十本の納品クエストですね……って、さっき受けたんですか?」
「え? あ、はい」
質の良い牙をちらりと見たあとにカードの確認をし始めた男性職員は、表示された内容に驚いていた。どうやらギルド側のシステムでは、依頼内容と受注時間が表示されているようだった。
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