第六話
二人は今日あったことを順番に話していく。
「俺はとりあえずレベルを八にして、冒険者ギルドに登録、薬草納品。その報酬で宿に泊まっているってところだな」
今日あったことの結果だけ、淡々と話すヤマト。
『そっかー。ってことはあのあたりだから……バードとかデビルウルフあたりと戦ったのかな? 近くの森に出るモンスターなら安全だもんね』
ヤマトの話から、情報を補填しつつユイナが話を進める。
「あぁ、一気に上げてもよかったんだけど俺たちがどういう状況に置かれているか把握したかったから安全に戦える相手だけにしておいたんだ」
そして、ユイナが広げた情報からヤマトがさらに話をしていく。これが二人のいつもの会話の流れだ。
『どうだった?』
ユイナも戦闘していたが、ヤマトの感じたことを先に聞いておきたかった。
「そうだねえ、モンスターを倒した時の感覚はゲームと違ってリアルだった。でも、倒したあと設定を変えないと消えるとか、ドロップしたアイテムは自然とアイテムストレージに格納される。このあたりはゲームなんだよなあ」
ヤマトの感覚が自分と乖離していないことにユイナはほっとしたように息をついた。
『だよね。異世界というのも違うし、ゲームとも言い切れない。その両方の差を見極めていかないと危険だね』
いつもは猪突猛進なところもあるユイナもどこがリアルでどこがゲームなのかを真剣に考えていたようだ。
「まあ、どっちなのかは結局のところ情報が足りない。だから、現状の情報からわかることを分析していこう。……一つ確認したい」
ヤマトの質問を予想できたユイナは質問を聞く前に答える。
『――他にいたか? でしょ』
通話の向こうでヤマトが頷いたのをユイナは感じる。
『各種族の開始地点に飛ばされるとしたら、同時に他の人もいなきゃおかしいだろうけど、特にはいなかったと思う。少なくとも見える範囲にはね』
ユイナは自分が飛ばされた時のことを思い出しながら話す。
「やっぱりそうか。俺のほうもそれらしき人はいなかったよ。他の種族の場合は違うのかもしれないけど、少なくともヒューマンとエルブンでは俺たちだけみたいだ」
ゲームの中に閉じ込められる話では、集団で、ということが多いが、今のところ他のプレイヤーの存在は感じられなかった。
『もし、見つけたらヤマトに報告するね。私一人でコンタクトとって失敗するのも嫌だし』
彼女の発言は、自分の能力を卑下しているというよりも、ヤマトの分析能力を信頼しているがゆえのものだった。
「そうだね、色々なプレイヤーがいるから気をつけておくに越したことはないだろうから。……ところで、レベルを上げたりお金を稼ぎながら進むことになるけど、目的地は中央都市リーガイアでいいかな?」
ヤマトの言う中央都市リーガイアとは、エンピリアルオンラインにおいてプレイヤーたちがまず最初に目指す大きな都市だった。
流れとしては、各種族のはじまりの街周辺でレベル上げをして、クエストを受けつつ装備が整ってきたら種族の大きな街を目指す。その後、中央の都市を目指し、そこで大きなクエストを受けて行く。そういったものだった。
『うん! 楽しみだね!』
現実になった色々な街を巡ることをユイナは楽しみにしている。ゲームでも世界は綺麗だったが、やはりデジタルデータと違って実際に感覚があり、風を肌で感じる現在のほうがより美しさを感じされている。世界の広さをより感じて冒険にワクワク感が増したとユイナは感じていた。
「そうだ、もう一つ確認したいんだけど」
思い出したようにヤマトはこれは確認する必要があると口にする。
『なあに?』
ユイナは今度は思い当たることがなかったため、素直に聞き返した。
「ユイナもレベル上げしたと思うんだけど、怪我ってしたかい?」
ヤマトは傷一つ負わずに魔物を倒したため、擦り傷一つ負っていなかった。だがもしかしたらユイナが怪我をしたかもしれないと心配になったのだ。
『ううん、レベルも装備もスキルも確かに弱いけど、さすがにこのへんの魔物から攻撃を受けることはなかったよ』
プレイヤースキルが同程度のユイナも当然のごとくダメージは受けていなかった。
「そうか……この世界、俺はゲームに似てはいるけど現実に近いんじゃないかと考えている。だから、俺たちはゲームのように死んで復活はできないんじゃないかと思っているんだ……どっちにしても試すわけにはいかないけどさ」
死という言葉を聞いて、一気に現実に引き戻されたユイナはごくりと唾を飲んだ。
ゲームのような世界に飛ばされて、楽しさが優先していたがモンスターと戦うことになれば死ぬことももちろんある。ゲームでは死んだら多少のペナルティがあるが、すぐに最寄りの街に復活することができる。
「でも俺たちはこの世界に生きていると考えたら、復活は難しいと前提にしておいたほうがいいだろうな」
『だね……』
二度とヤマトに会えない可能性があることに気づいたユイナの声のトーンはかなり落ちていた。
「まあ、俺たちにはゲームの知識もあるし、他人の能力を多少ではあるけど見ることができる。それはかなりのアドバンテージだから無理はせずに、かつしっかりとレベル上げをして油断せずにいこう」
『うん! いつもと同じだね!』
普段からヤマトはいつでも死んで大丈夫だと思ってプレイするのは危険だと、ゲームの頃から死んだらその日はプレイ禁止のルールを作っていた。少しでもゲームを長く楽しみたい彼らは死なないためにどうするべきか、それを常に考えて行動していた。
そのため、二人がプレイ中に死ぬことはほとんどなかった。
――不敗のヤマト、不死のユイナ、それが仲間からつけられたあだ名だった。
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