第五十話
「さて、どうやって抜けていくか――だけど」
ヤマトの言葉にユイナはくすくすと楽し気な笑顔になる。
「ふふっ、ヤマトのことだもん、とーぜん考えてあるんでしょ?」
ユイナはヤマトのことを理解しており、当然作戦はあるのだとわかっていた。
「まあね、といっても大した作戦じゃないんだけど……このままもう少しここで戦ってレベルとスキルレベルを上げるのが一つ目――そして一旦リーガイアに戻る」
「……戻るの?」
このまま先へ進むものだとばかり思っていたユイナは首を傾げる。
「そう、それで俺もユイナも新しい魔法を覚えよう。魔導士になったし、旅人だった頃より適正もついてるだろ? そしたら、またここに来てレベル上げ。そしたら、新しく覚えた魔法をぶっ放しながら馬に乗ってダッシュだ」
ヤマトの作戦を聞いてユイナは口を開いていた。驚いているというよりも、呆れているという様子だった。
「要するに、レベルを上げてのゴリ押しってことかあ……作戦っていうには、単調すぎないかな?」
「まあねえ。色々手があればいけるんだけど、現状だとそれが最善手かなあって」
不満そうなユイナの指摘はヤマトも感じていたことであった。苦笑交じりでポリポリと頬を掻く。
「……ま、でも、ヤマトが言うならそれしかないのかな! 私も代案なんて浮かばないしー……うん、とりあえずやろっか!」
考えるよりも行動派なユイナは早速弓を構えて戦闘準備をする。
「よし、行くぞ!」
それから二人は戦闘開始し、レベルとスキル上げに勤しんでいく。
途中に少し強いモンスターが出たこともあったが、ジョブに就いてレベルも上がっていた二人にとって敵ではなかった。
そして、二人が再びここにやってくるのは事前に示し合わせていたとおり魔法を身につけてからだった。リーガイアの魔導士の店でヤマトもユイナもいくつか新しい魔法を購入し、それを最大限に活用するために特訓も重ねていた。
「よっし、それじゃ本気でいきますか!」
「うん!」
互いに目を合わせ、大きく頷きあったヤマトとユイナ。以前話していたこの大草原を駆け抜けるための作戦が始まる。
ユイナが選んだ魔法使いの上位職である魔導士は魔法能力に特化したジョブであるゆえに多くの魔法を使うことができ、更には攻撃魔法を使う際にダメージアップボーナスが付与される。
彼女は魔導士になったことで魔力の底上げが図られ、色々な種類の魔法矢を使うことができ、さらには魔法による遠隔戦闘も行える。
「《フレアアアアアアアボオオオオオム》!」
ユイナが使ったのは、炎の上位魔法。お金を払って最初に覚えた《フレア》という魔法を更に使い込んで、上位の魔法まで使えるように成長していた。
《フレアボム》――それは手のひら大の炎の玉が飛んでいき、着弾した場所を中心に大きな爆発を巻き起こす。その範囲は最大で半径十五メートルといったところだった。
もちろんユイナが放ったのは現時点で最大の威力のものであり、着弾すると大きな爆発音を出して周囲にいたモンスターを次々に飲み込んでいった。
「おぉー、すごいなあ」
感心したようにその魔法に魅入ったヤマトは素直な感想を口にする。
魔法は爆発を巻き起こすと一定時間で炎は消えてしまう。
「ヤマト急ぐよ!」
だからこそユイナは馬に指示して先行する。モンスターが逃げ惑っている今こそがチャンスであり、二人はそれぞれの馬に乗って大草原の真ん中をかけていく。
「ははは! これは爽快だね! ――いけ、《フレアブリット》!」
ヤマトは途中でユイナを追い越し、先行しながら、さらに進む先の道をあけるため、魔法で切り開かれた道にいるモンスターを目がけて炎の魔法を放っていく。
《フレアブリット》――炎の中位魔法で炎の弾丸を生み出してモンスターを撃ち抜いていくものだ。
魔導士と比べて魔法使いは中級までしか使えないため、ヤマトは先ほどのユイナの大魔法で運よく生き延びたモンスターに止めを刺す。
「せいっ!」
ヤマトのすぐ後ろについたユイナは馬上から矢を放ち、ヤマトが取りこぼしたモンスターを次々に撃破していく。
この二人であれば大草原にいる全モンスターの討伐の可能なのではないかと思わせるほどの戦いぶりだった。
だが立ちふさがるモンスターは走り抜けるにはまだかなりの数が残っており、どこからともなく湧いて出てはヤマトたちの足を止めていた。
「――ヤマト! まだかな!?」
それでも少しずつ進んできたところで、彼の合図を今か今かと待っているユイナは攻撃の手を緩めず、少しでも早く知りたいとヤマトに声をかける。最初のような大魔法をもう一度放つためのタメもあるため、適当なタイミングで撃てばいいというものでもない。
「まだだね! マップを見たら真っ赤だよ! もう少し減らないと……」
思っていた以上のモンスターの数にぐっと表情をしかめたヤマトは街に戻った際に購入しておいた槍に持ち替えて、中距離攻撃でモンスターを倒していく。なりふり構っていられないため、倒したモンスターはすぐに消える設定にしている。
「焦るな……まだ、まだ……」
ヤマトは自分にも言い聞かせるように、まだ気を緩めるなと声を出している。
「いくよおおおお!」
合間に少しでも道を切り開くため、上位魔法を交えながらユイナも自分を鼓舞して攻撃を続けていく。
「「ヒヒーン!」」
二人を乗せる二頭も同じように奮闘の声をあげている。ヤマトが攻撃をして、それから漏れたモンスターをユイナが倒し、それでも残っているモンスターを二頭が踏みつぶしていく。
彼らが通り抜けて来た道に倒したモンスターの姿は既になかったが、すぐに新しく現れたモンスターがその道を再び封鎖していく。
「これは、すごいな……」
先を進みながらもヤマトはじわりと額に汗を浮かべている。前方はなんとか自分たちの魔法、槍、矢、蹄によって空いているが、一歩止まってしまえばすぐに新たなモンスターに封鎖されてしまう。
それゆえに、一行の表情には余裕と呼べるようなものはなかった。
「いけいけいけえええええええ!」
「ゴーゴーゴー!」
全力を出して進む二人の声が最も大きくなったのは、あと少しで大草原を抜けるというところまで来たところだった。
「――勇猛な冒険者がいたものだ。安心して真っすぐ進め!」
もう少しで大草原の終わりというところで、前方から勇ましい声がかかった。
どうやら声の主は獣人の戦士で、鍛えられた美しい筋肉を持ち、手には大きな斧を構えていた。そして、その隣には細身だが弓矢をしっかりと構えたエルブン族がいる。
その声に励まされた二人は更に勢いを増して先へと進む。
「振り返らずに行って下さい! 後ろは私たちがなんとかします!」
突如現れた二人は男前な言葉をヤマトたちにかけるが、近づいてみると彼女たちはすれ違うものが思わず足を止めてしまうような美人な女性組だった。
「お願い、ごめんね!」
「すまない!」
しかし、ヤマトたちは留まることを知らぬ大草原に沸くモンスターから逃れるため、謝罪の言葉だけを残し、足を止めずに駆け抜けていった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
あらすじにも書きましたが
この作品は完結して、プロットを練り直したものをリメイク版として投稿します。




