第四十九話
一度、戦闘を開始すると二人は流れるようなコンビネーションで戦っていく。
遠距離からのユイナの弓矢による攻撃。前線ではヤマトのクリムゾンソードと魔法による攻撃。
そして、二人の間を駆け抜けるエクリプスの蹄による攻撃。
これらが一体となって、次々にモンスターを討伐していく。
ヤマトが選んだ騎士のジョブ。剣術士よりも一歩上を行く上級職。だがその剣術を更に昇華させるのがもう一つ選んだジョブの魔導士だった。
「《水の剣》!」
ヤマトがクリムゾンソードに纏わせたのは水。炎と水……一見して相性が悪いように思われるが、沸騰する水が触れることで、モンスターに熱傷のダメージを負わせている。
更には剣の先端から飛ばしたお湯の玉は熱傷に加えて水圧も強烈だった。
初級魔法との組み合わせだったため、格段に効果的とまでいえないものの、それでも強力な攻撃になっていた。
「やっぱりヤマトってばすごいなぁ、さすがは私の旦那様!……でも私も負けないよ!」
ユイナが選んだ職業は狩人。オークボウとの相性は抜群で、射程距離もこれまでより圧倒的に伸び、離れた敵にも全て見事に命中させていた。
しかし、当然ながら数をうっているうちに前回の戦い同様、矢が尽きてくる。
「――今度は前のようにはならないよ!」
誰に言うでもなく、好戦的に微笑んだユイナはそう手に言って魔力を込める。彼女の第二ジョブである魔導士の力によって何もなかったはずの右手には、魔力で作られた矢が作り出されていた。
「今度の矢は痛いよ!」
魔力で作られた矢は、これまで使っていた一般的な木の矢よりも攻撃力が高く、魔法の種類によっては付属効果もつけられた。魔法が得意なユイナからすればこちらの矢の方がより実力を引き出せるものだ。
鋭く放たれた魔力矢は風の力を身に纏い、狙い通りモンスターを撃ち抜くと風による追加攻撃で一撃必殺のものへと変化する。
ヤマトたちの動きに注意しながら敵を引き寄せたり、自身でも止めを刺したりと臨機応変に戦い方を変えてどんどんモンスターを倒していった。
二人はなりたてのジョブ、そして互いの能力を確認しながら戦いを進めていく。時にはヤマトが釣り役になってみたり、エクリプスがその役目を買ってみたり。
一つのグループを撃破したら、次のグループを釣って、それを撃破する。
それを十回ほど繰り返したところで二人は戦う手を止めて状況分析に移っていた。
「ヤマト」
「うん」
二人はモンスターの敵視をかいくぐり、少し離れた場所から大平原を確認している。二人が倒したモンスターの数は既に五十を超えていた。
「――あれだけ倒したのに、まだこれか……」
戦闘開始前と今とでなにが変わったかといわれて、答えられない情景がある。倒したそばから新たなモンスターが現れてくるのだ。
「減った気がしないねぇ……」
いつも元気なユイナも終わりの見えない現状に今ばかりは肩を落としている。数はいるものの、爆発的なレベルアップにはイマイチ物足りないモンスターたちであることもユイナのテンションを下げていた。
「橋の時よりも多い感じだよなあ」
「うん……どうしよっか?」
どう戦えばいいのか思いつかないユイナが困ったようにヤマトに尋ねる。
「そうだなあ、作戦としてはいくつかある。一つは、今のままの戦いを続けること……メリットとしては微々たるものでも敵を倒すからにはレベルも上がるし、スキルレベルも上がっていくから戦闘方法がどんどん増えていく。――ただデメリットとしては、解決に至るまでに、どれだけ繰り返さないといけないのか見当がつかない」
今でもかなりの数のモンスターを討伐しているにも関わらず、焼け石に水状態だった。
「……他の方法は?」
自分たちのレベル上げという目的にとってはいい方法だったが、解決しないのでは他の方法を選ばざるを得ない。
「二つ目は、橋の時と同じでこの現象の原因になっているのがなんなのかを探し当てること。メリットとしては、それが片付けばモンスターを惹きつける効果が失われて一気に解決する。デメリットとしては、橋と違ってその原因がどこにあるのかわからないし、そもそも原因があるのかもわかってない」
大平原が戦闘場所とあっては、めぼしい場所を見つけるのも大変だった。ただでさえモンスターが大量にはびこり、探すのにも広大な土地で戦闘しながらとなればさすがのヤマトたちでも時間がかかるだろうことは想定できる。
「てことはまだ、案はあるの?」
ユイナは二つ目の案も難しいと考え、次の案があるのかを確認する。この話ぶりならばヤマトの中で他にも考えがあるのだろうと期待できた。
「そうだなあ、二つ目に絡んだものになるんだけど……――あの中に突っ込んでいって、突き抜ける」
「突き、抜ける?」
ヤマトの案は捨て身であるかのようなものであるため、訝しげな表情のユイナはオウム返ししてしまう。
「そう、突き抜けて、更に走り抜けて獣人の始まりの街ブラスエンドまで行くんだ。俺もユイナも種族が違うからあの街にはあんまり行ったことない。つまり、あの街に行けばこの大平原にまつわる情報も手に入るんじゃないかなと思うんだ。今の俺たちは情報が少なすぎる……だから突っ切ってブラスエンドに行くっていうのはどう?」
この案にはユイナもなるほどと感心する。
ゲーム時代、効率よく回ろうとすると広い世界観を持つエンピリアルオンラインでは立ち寄らない街や施設が出てくる。一度や二度、訪れただけの場所なども結構あり、各種族の始まりの街となればそのうちの一つだった。
「確かにそうかも。大平原に実は何かがある! とか、そういう情報が解決に近づくもんね――問題は」
ユイナが見た先に広がるモンスターが大量にうろつく大草原――あの中をどうやって抜けていくかだった。
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