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第四十七話


「その……申し上げにくいのですが、まずは報酬の問題です。このクエストは調査、という名目であり高ランクに指定することが難しいのです。凶悪なモンスターが出る等の情報があればその限りではないのですが……」

 つまるとこ、低いランクとしてクエストを出した場合、同じランクの冒険者が受けてしまえば危険な場所に放り込むことになってしまう。


 かといって、ランクが低いクエストであればそうそう上位の冒険者が受けることはない。


「なるほど、それでランクが低くて、なおかつ戦える俺に白羽の矢が立ったということですね」

 難しい表現を使ってしまったかと思ったが、ムラザフは聞き返すことなく神妙な面持ちで頷いていた。


「ヤマトどうする?」

「うーん、俺は別にいいと思うけど……ユイナは?」

 首を傾げながらのユイナの問いかけにあっさりと答えるヤマト。それを聞いたムラザフはぱっと明るい表情になる。


「私も別に受けてもいいかなあとは思ってるんだけどー……ただ、やっぱり条件を聞かないことにはね」

 ニコニコと笑顔で言うユイナだったが、意味ありげにムラザフに視線を向け、抜け目なく条件の確認をする。


「えぇ、まず報酬に関してですが、クエスト報酬は先ほど伝えたようにランクに合わせた金額になります。今回でいえば、Eランク相当……よくてDランクといったところでしょうか」

 クエストランクが高ければそれだけ難易度が高いものと判断され、報酬も自然と高いものになっていく。本来であれば今回の依頼ではあまりいい報酬は期待できない。


「うんうん、なるほどー、でも難易度高いんだよなぁ……それでその金額となると……」

 ちょっと渋る様子を見せながらも、ユイナはこのクエストこそ自分たちが求めているものだと判断していた。おそらく、調査となるとこの間の橋での戦いのように多くのモンスターとの戦いになることは予想できる。

 あとは相応の報酬が手に入れば問題なしだった。


「いやあ、ユイナ。さすがにそのランクで、これ以上の報酬を要求するのは、ねぇ……?」

 ヤマトもユイナがこのクエストに狙いを定めたことを理解して話を合わせ、ムラザフからより良い条件を引き出そうとする。


「……かないませんね。お二人はこのクエストの重要性を理解しているようですし……」

 大きく息を吐きつつも二人が冗談だけで言っているのではないとわかったムラザフは、自ら条件を提示する。

「それではクエストを達成した場合は追加報酬を私のポケットマネーからだしましょう」

 苦肉の策、というわけではなく、これはムラザフが最初から織り込んでいた考えであり、ここで引き受けてくれればと考えていた。


「――受けた!」

 元気よく手をあげたユイナは追加報酬と聞いて笑顔で即答した。


「……と、いうことらしいです。報酬には期待していますのでよろしくお願いします。次は、クエストの詳細な内容の説明をお願いします」

 ユイナがいいと決めたならば次はどんな依頼か見極める必要があるため、ヤマトは冷静に話を進める。

 調査というとざっくりとした表現であり、何をもって達成とするかの基準が曖昧だったからだ。


「ありがとうございます。それではクエストについての話に移ります。今回の調査対象ですが、北にある獣人の始まりの街ブラスエンドまでの道です」

 ブラスエンド――ヤマトが飛ばされたヒューマンの始まりの街デザルガ、ユイナが飛ばされたエルブンの始まりの街ルフィナ。その二つと同様に獣人で開始したプレイヤーが最初に飛ばされる街であった。


「なるほど、あそこまでの道ということは……途中にあるのは獣の平野あたりですかね」

 獣の平野というのはブラスエンドとリーガイアのちょうど中央に位置する大平原であり、広大な土地と豊かな自然が魅力の、獣人族最初の聖地と呼ばれる場所だった。しかし、今ではモンスターが生息しており、それらを討伐するのが獣人族プレイヤーの最初の仕事だと言われていた。


「ご存知でしたか、そのとおりです。元々モンスターが生息する場所なのですが、最近はその数が格段に増えてきていまして……」

 その次の言葉を言いたいが、そこまで言い切っていいのかとここにきてムラザフは躊躇する。


「なるほど、それらを全て討伐……もしくは、原因を究明し、その原因を取り除いて欲しいということですね」

 ムラザフは自分が言おうとして飲み込んだ言葉をヤマトが口にしたことで、一瞬驚いたあと、すぐにうなだれるように首を縦に振った。


「了解です」

 そしてヤマトがこれまた即答したことで、ムラザフは驚いてがばっと顔をあげる。

「それじゃ、早速行きますか。そうだ、クエストとして受注するんですよね? 表で手続きをお願いできますか?」


 ヤマトとユイナがさっと立ち上がったのを見て、座ったままのムラザフは戸惑っているようだった。

「え、あ、えっと本当に受けて頂けるのですか……?」

 そっちから言ってきたのに今更というようなその問いに二人は不思議そうな顔で首を傾げる。

「えっと、受けたほうがいいんですよね……? だったら、引き受けますよ。こちらとしても色々と都合が良いので」

 完全に目的と一致したため、この依頼を受けることになんの躊躇もなかった。二人は笑顔で大きく頷いている。


「さあ、行きましょう」

 頼りがいのある雰囲気を持ったヤマトが促すと、ここでやっとムラザフは立ち上がった。

「――ありがとうございます! 手続きですが、こちらでもできますのでカードをお出し下さい」

 嬉しそうに破顔したムラザフは大きく頭を下げると、すぐに仕事モードになり、部屋に備え付けられているクエスト受注用の魔道具の準備にとりかかった。



お読みいただきありがとうございます。

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