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第四十三話



 紅のローブと白銀の胸当てを試着して確認しているヤマトとユイナが驚いていることに、猫耳少女店員はこてんと首を傾げていた。

「気にしないで下さい。サイズもピッタリみたいなので、購入します。――ユイナもいいよね?」

 大丈夫なものと判断して話を進めたが、念のためユイナにも確認をする。


「もっちろん! ありがとね! じゃあ、元の装備に着替えてくるよ!」

 とびきりの笑顔で頷いたユイナはさっとカーテンの中に戻るが、猫耳少女店員が慌ててユイナに声をかけた。

「あ、あの! 購入するのであれば、装備したままで大丈夫ですっ。すいません、説明足らずで……」

 言い忘れていたことに気づいた彼女は恐縮している様子だったが、ユイナは笑顔でカーテンを開けて試着室から出てくる。


「よかったあ、着替えるの意外と大変なんだよねえ。ちょっと遠目からも見てくるね」

 ユイナは新しい装備を気に入ったらしく、ご機嫌で自分の姿を店内にある姿見鏡で確認しにいった。試着室にある近い鏡で見るのと印象が違うこともあるからだろう。

「えへへ……」

 新しい装備に身を包み、ひらひらと後ろも念入りに確認して上機嫌なユイナの様子を見て、ヤマトも満足していた。


「あとは、少し俺の防具も見せてもらおうかな……あっ、先に彼女の装備の支払いをしておきますね」

「は、はい、それではあちらのカウンターでお願いしますっ」

 ヤマトが支払いをしている間もユイナは自分の装備を確認して頬を緩ませながら喜んでいた。


 その後ヤマトは自分の装備も何かないかと確認していくが、めぼしい装備が見当たらなかったため、購入を見送ることにした。

 ちなみにユイナは魔法使いがかぶるような三角帽子も購入している。ローブと合わせたもので、可愛い装飾もついていたことで更に彼女の機嫌はよくなった。






「さて、それじゃあいこうか」

「うん! 店員さん、ありがとうございました!」

 ユイナは手を振りながら猫耳女性店員に礼を言って、ヤマトも頭を下げて店をあとにした。


「なかなか良い買い物ができたね」

「うん! まさか、こんなことになるとは思わなかったよね。……なんだろ? 拡張機能みたいな感じだけど」

 不思議そうな顔でユイナはメニュー画面から自分の装備を確認していた。


「うーん、俺たちは元々のゲームのシステムが基本にあって装備とかもこうやって表示されるわけだけど、実際には今のユイナみたいに胴装備の上に胴装備を着ることはできる。そこを無理やりじゃないけど、うまく統合した結果がこの画面なのかもね」

 ステータスを確認すると、ユイナの防御力はちゃんと胴装備二つ分あがっていた。


「なるほどー、やっぱヤマトがいると色々相談できるから助かるなー」

 ゲーム時代――更にさかのぼると、ゲームを始める前からユイナは何か困りごとがあるといつもヤマトに相談していた。最初は些細なものだったが、次第になんでもヤマトに相談し、そのたびに真剣に考えて意見を言ってくれるヤマトの事を心から信頼したのだ。


「ははっ、考えをまとめられるのもユイナがいるからだよ。一人だったら色々考え込んでいたかもしれないからね」

 ヤマトが笑って言うこれも事実であり、ユイナがいることでヤマトの思考速度はあがっていた。一人でいる時はわりとのんびりしたヤマトだったが、二人でいる時は彼女を守らなければならないという気持ちから集中力もあがっている。それは決して義務感などではなく、愛しいものを思うが故の自然なものだった。


「えへへー、それでこのあとはどうするの?」

 当初の目的だったユイナの武器と防具の購入が終わったため、ユイナは次の行動の確認をする。

「そうだなあ、ユイナはさっきの戦いでレベルいくつになったっけ?」

「えっとねえ……二十五レベル!」

 ステータスを確認したユイナが答えたレベルは、橋に到着する前よりも五つ上がっていた。


「俺の方は、三十レベル……なんだけど……」

 ヤマトがそこまで言うと、ユイナは何かに気づいてぱあっと笑顔になる。

「――そっか!」


 見つめ合っての次の言葉は二人の声が揃う。

「「ジョブチェンジ!!」」

 二人の現在の職業は、旅人というものになっている。これは全てのプレイヤーが最初に割り振られる職業であり、ほとんどの武器防具を装備することができるが、そのかわりレベル上限が三十になっている。


 大体のプレイヤーは職業変更可能な二十五から上は別の職業を始める。

 つまりレベル三十以上になりたければ、ジョブ(職業)チェンジ(変更)をする必要があった。


 間に五レベルの期間があるのは、いろんな職業から自分に合ったものを探すための猶予期間のようなものだった。


「そうかあ、ここは中央都市リーガイアだから職業も変えられるんだよね」

 各種族の始まりの街では、あくまで旅人として冒険をするものとして設定されており、この中央都市にやってくることで次のステップに進めるようになるという流れになっていた。


「ユイナは弓を上げてて魔法も上げるから、狩人か魔法使いあたりから開始かな?」

 ジョブチェンジできる条件は旅人のレベルが二十五になっていること、そして狩人なら弓の、魔法使いなら攻撃魔法の熟練度が一定値まで上がっていることが条件になる。


「そーだねぇ、順番にあげていきたいかも。ヤマトは騎士か戦士か、そのあたりなのかな?」

 エンピリアルオンラインでは、複数のジョブをあげていくことが可能であった。もちろんゲーム時代には全てのジョブを最大まで上げていた二人だった為、今の適正ジョブをすぐ互いに理解できる。


「うん、とりあえず前衛職をやるから騎士かなとは思ってる。剣技とか覚えて行けば、前衛として楽だからね」

 騎士は前衛職を始めるプレイヤーが大抵の場合選ぶジョブだったが、それゆえにプレイしやすくかつ有効なスキルを覚えるジョブだった。


「それじゃ」

「行こうか!」

 二人の目的地が決まったため、しっかりと頷きあうと、ジョブチェンジのための場所へと向かっていった。



お読みいただきありがとうございます。

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