第四十二話
ユイナが店主を驚かせることが数度あったが、買い物は順調に終え、無事にユイナの武器を揃えることができた。
「一軒目からいい武器があってよかったね。次は防具を見に行こうか」
武器屋を出たところでヤマトが次の目的地を決める。
「うん! さすがに……これじゃあねえ」
いい武器が手に入って嬉しそうにしていたユイナだったが、乾いた笑いでふと今着ている服を見る。彼女の現在の装備はエルブン族の初期装備であり、防具というよりは服といったほうが的確だった。
「可愛いと思うけどね、戦闘向きではないかな」
種族の初期装備は能力は決して高いものではなかったが、デザインは凝ったものになっている。ゲーム時代には普段着として愛用していた者もいるほどだ。
「そんなあ、可愛いだなんてえ、照れちゃうよう!」
ユイナは顔をきゃーっと抑えつつ、照れを誤魔化すようにバシンとヤマトの背中を叩いていた。
「うぐっ……俺が褒めたのは服のほうなんだけど……まあユイナも可愛いからいいか」
ヤマトの言葉の前半はユイナの耳に届かず、後半だけは聞こえていたようで、顔を真っ赤にしたユイナはしばらくの間黙って照れていた。
そんな様子をヤマトは微笑ましく見ている。
しばらく甘酸っぱい雰囲気を出しつつ歩いていると、目的の店が目に入ってくる。先ほど褒められたせいか、どこかユイナは上の空だ。
「ユイナ、ねえユイナってば!」
「……えっ? な、何?」
ヤマトが大きな声で名前を呼んだため、ユイナは驚いて我を取り戻す。目をぱちくりとさせて足を止めた。
「防具屋、着いたよ」
優しい笑みでヤマトが指差した先に防具屋があり、ユイナは驚く。
「えっ? い、いつの間に……」
ヤマトの不意打ちの誉め言葉にふにゃふにゃととろけていたユイナはその間、周囲への注意が散漫になっていたため、気付けば防具屋の前にいたという状況だった。ヤマトはもちろんそんな彼女が人混みの中で危ない目に合わないようにそれとなく身体を抱き寄せたり、導くようにしていた。
「入っても大丈夫?」
「もっちろん!」
ヤマトが念のため確認すると、普段の様子を取り戻したユイナは笑顔で元気な返事を返してきた。
「こんにちはー」
「こんにちわ!」
ヤマトとユイナは挨拶をしながら店の中へ入って行く。
「いらっしゃいませ!」
飛び出すように出迎えてくれたのは、猫耳の少女だった。黒髪の中にある同色の大きめの耳がチャームポイントになっている。ワンピースにエプロンをしており、背中の方ではゆらゆらと長い尻尾が揺れていた。
「か、可愛い!」
それは興奮状態のユイナの言葉だった。可愛いものに、この場合は人だが――とにかく彼女は可愛いものが好きであり、店員の猫耳の少女もストライクゾーンに入っていた。
「えっ!?」
急な反応に猫耳の少女は驚いてもふっと毛を逆立てると、耳と尻尾をへにゃりと下げて困った様子だ。
「あぁ、もう……ごめんね。ちょっと彼女可愛い人に目がなくて……君が店員さんでいいのかな? 防具を見せてもらいたいんだけど……」
仕方ないなというようにヤマトはユイナを下がらせると、目線を合わせるようにかがむと人好きする笑顔を浮かべ、猫耳の少女に状況を説明する。
「は、はい、どうぞっ、中は自由にご覧下さい」
「ありがとう、ほらユイナいくよ」
未だ混乱状態にある猫耳の少女にヤマトは礼を言うと、ユイナを引っ張って店の中を見て回る。引っ張られつつもユイナがごめんね、と申し訳なさそうに謝ると少女はぶんぶんと首と手を振って小走りで離れていった。
「ユイナはどうする? 俺は軽い鎧にしたけど、遠距離だったらローブ系とか胸当てだけとかもありだよね」
ヤマトはユイナが弓も新しく買っていたことから、遠距離をメインにする可能性を考えていた。ゲーム時代には最終的に細剣と魔法を組み合わせてメインにしていたが、どちらかというと魔法寄りだったこともある。
「うーん、そうだなあ。近距離戦闘はヤマトに任せて私は後方支援とか、遠距離攻撃っていうのも確かにいい方法だよね。エクリプスもいるから、前線は保てるし」
ユイナはヤマトの提案に色々と考えていく。ゲーム時代は二人揃ってオールマイティプレイヤーで、近接、遠距離とどちらもいけたが、それはレベルが高い頃の話で、ここからは分担して戦うのが有効な戦法だと考えられる。
「そうだねえ、弓と……あとは魔法も覚えるといいね。俺は水と氷の初級魔法は使えるけど、それ以外には手を出してないからね」
初級魔法は戦闘の助けにはなるが、上のランクのモンスターとの戦闘では効果が低かった。元々魔法を使いこなしていたユイナだからこそ、ヤマトはそう提案する。
「なるほどー、そうなると強化魔法とか回復魔法を覚えるのがいいかなあ?」
種族ごとの始まりの街で覚えられる魔法は、水、火、風、土の基本となる四属性のみで、リーガイアに到着することでやっと強化魔法や回復魔法も覚えられるようになる。どうせ覚えるのならばヤマトの助けになるようにしたいとユイナは考えた。
「あー、それがいいかもね。攻撃系はあとでもいいけど、強化系は早いうちに強くしておいたほうが戦闘がかなり有利になるから」
地味な魔法であるため、あまり優先して覚える者が少ない魔法だったが、レベルが上がれば上がるほどにその効果を発揮していく。むしろそれを使いこなせるかどうかが最終コンテンツに参加できるかの分かれ道であったほどだ。
「うん! 私は弓と魔法系を上げていこう! 防具は胸当てをつけて、ローブを羽織るっていうのもできるのかな?」
魔法系のステータスを強化するローブと、胸当ての防御力のいいとこどりを考えるが、ゲームでは胴装備を二つ装着するのは不可能だった。
「せっかくだから試してみようか――すいません試着ってできますか?」
ふと振り返ったヤマトは少し離れたところで陳列を整えていた猫耳少女の店員に質問する。すると彼女はぱっと近寄ってきて笑顔で頷いていた。
「はい、そちらが試着室になっていますので。一応持ち込む商品の確認はさせて頂いていますっ」
彼女の言葉にユイナはどれがいいか周囲を見回して、ハンガーにかけられた羽織るタイプのローブと胸当てを手に取る。
「この二つ、いいかな?」
話しかけるユイナからは、店に来たばかりのような猫耳少女店員に対する執着はなくなっていた。それは二つの胴装備を一度に身に着けることができるかどうかということに興味が移っていたためだった。
「えっと、紅のローブと白銀の胸当てですね。大丈夫ですよ、出てくる際は外して出てきて下さいっ」
「はーい、それじゃ行ってくるねー」
猫耳少女の店員に確認してもらって了承を得たユイナはそれらを持ってひらひらとヤマトに手を振ると試着室へと入って行った。
試着室に入ってカーテンを引き、外から見えなくなったのを確認すると、ユイナは早速着替えを始める。
数分ののちにユイナは試着したまま、試着室のカーテンをあける。
「――ヤマト、見て!」
「おー! これは……へー、こうなるのか」
試着室から出なければ大丈夫なため、その場でぱっと腕を広げてユイナが見てとヤマトに言ったのは見た目と、ステータスだった。
ヤマトはメニュー画面から、ユイナの装備を確認していた。すると、ゲーム時代にはなかった仕様で、胴装備が横並びに二つ表示されていた。
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