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第四十話


 その後、二人がクエストボードを確認してしばらく時間を潰していると、買取を担当しているオルグ族の職員が声をかけてきた。


「お待たせいたしました。査定が完了しましたので、カウンターまでお越し下さい」

「わかりました」

「楽しみー!」

 ヤマトとユイナは先ほど魔石を並べたカウンターへと向かう。


「えー、たくさんのお持ち込みありがとうございます。こちらが料金になりますがいかがでしょうか?」

 すっと内訳を記載した用紙が二人の前に提示される。魔石の種類ごとに値段がつけられ、合計金額も記されている。


「おー、結構いいかも」

「うん! これなら、色々買い物できるねー」

 その金額は二人が思っていたよりも高かった。思わず二人の表情は嬉しそうに緩む。


「……それでは?」

「はい、買取お願いします」

 ヤマトは職員の質問に即答する。ユイナは彼の決断に同意するようにこくこくと笑顔で頷いていた。


「ありがとうございます、手続きを進めさせていただきます。――お二人はお持ちになった魔石はとても品質の良いものでした。普通これだけの数を持ち込むとなると、傷がついたものも多いのですが、それが一つもありませんでした」

 モンスターの身体を切り裂いて取り出すこの世界の方法とは異なり、ヤマトとユイナはモンスターを倒したことにより、アイテムストレージにドロップ品として入手した魔石であるため、傷一つない最高品質のものが手に入っていた。


「それはよかったです。気をつけたかいがありますよ」

 しかし、そんなことを吹聴するわけにもいかないため、ヤマトは少しアバウトな表現で自然に会話を濁していた。


 ヤマトたちが提出した魔石の品質は余程良いものであったらしく、買取が決まったそばから別の職員が一つずつ慎重に梱包していた。

「それでは、買取金額のお支払いをしますので少々お待ち下さい。その間にカードの準備もお願いします」

 恭しく一礼するとオルグ族の職員は奥の金庫に向かい、ヤマトとユイナは冒険者ギルドカードを取り出していた。





 しばらくして職員が戻って来るとカードの手続きを終えて、買取金が支払われる。

「こちらが金貨になります。お気をつけてお持ち下さい」

 ずっしりと袋に詰まった金貨がカウンターの上に置かれる。


「じゃあ、ヤマト持っててくれる?」

「了解」

 ユイナの問いかけにすぐに頷いたヤマトは自分のカバンの中へと金貨をしまう。もちろん直接いれているわけではなく、いれているふりをしてストレージに格納していた。


「それでは、また何かありましたらお持ち込み下さい。今日くらいの量であれば対応できますので」

 これ以上になると対応できないかもしれないと、暗にオルグ族の職員は言っていた。だが今回のような高品質の持ち込みならば大歓迎であるため、彼らの再来を心待ちにしている気持ちを伝えた。


「わかりました。それではまた何か手に入ったら来ますね」

 にっこりとヤマトは笑顔でそう返事をするが、こちらもまた同じくらいの量は持ってきますよという意味を込めていた。


「ふふっ」

 ヤマトの意図したことが伝わったのかオルグ族の職員は笑う。

「ふふふっ」

 それに対してヤマトも笑顔を返す。


「……こ、怖いよ! ねえ、ヤマト、もう行こうよ!」

 二人の腹芸に恐怖心を抱いたユイナは不安そうにヤマトの袖を引っ張って急いで冒険者ギルドから出て行った。







「もうヤマトったら!」

 自分を置いてけぼりにされたのと、二人のやりとりが不気味だったため、ユイナはご立腹の様子だった。頬をぷくりと膨らませてヤマトに不機嫌だということをアピールしている。

「ごめんごめん、ついね。なかなか面白い職員さんだったからさ。それで、とりあえずは武器を見に行くのでいいのかな?」

 一人で楽しんでしまっていたことを謝りながら彼女をなだめるヤマト。まとまった金が手に入ったため、防具ももちろん購入する予定だったが、彼はユイナが短剣で戦っていたことをずっと気にしていた。


「そうだね、やっぱりこの武器じゃちょっと心もとないかも」

 ユイナは懐から短剣を取り出して、困った顔で短剣を見ていた。これは最も初級の短剣であり、よくこんな武器であの橋での戦いを切り抜けられたものだ――そう自分のことを感心していたほどだった。


「さすがにそれはちょっとねえ。それでユイナはどの武器にするの?」

 メインに使って行く武器の選択。今回彼女は弓をメインにしていた。しかし、近接戦闘に持ち込まれた場合に備えて、今回のように武器を用意する必要があった。あくまで短剣はつなぎの武器でしかない。


「うーん、そうだなあ……前みたいに細剣でもいいと思うけど。でも、まずはこの街の品ぞろえを見たいかな。面白い武器とか強い武器とかあるといいね! ヤマトのその剣も普通だったら手に入らないクリムゾンソードでしょ?」

 ユイナも見ただけでアイテムのある程度の性能を見ることができるため、帯剣しているのがクリムゾンソードであると最初に見た時から見抜いていた。


「そうそう、前の街の武器屋さんにフレイムソードの調整を依頼したら、この剣を使え! って言われてもらったんだ」

 通常、四十レベルにならないと手に入らないものであり、四十レベルから受けられるクエストを攻略することで手に入る武器。それを今から持っているというのは戦闘に対してかなりのアドバンテージを受けていた。この剣をもらった時のエピソードを思い出してヤマトはふわりと笑っている。


「へー、いいなあ。私も何かいい武器が手に入るといいんだけど……」

 能力の面ではもちろん、これからの戦いで使用するにあたって、お気に入りといえるような一本を手に入れたいとユイナは考えていた。


「確か、この街には武器屋が三軒あるはずだから順番に見て行こうか」

「おー! たっのしみー!」

 新しい武器への期待からかユイナはテンション高く、ヤマトは苦笑しながらその背中を追っていく。




 目的の店へと一直線に向かうユイナとヤマトは、すぐに一軒目の武器屋へと到着していた。


お読みいただきありがとうございます。

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