第三十九話
食事を終えた二人は公園に備え付けられていた水場で手を洗うと、一路冒険者ギルドへと向かっていた。
「んふふ~、ギッルッド♪ ギッルッド♪」
スキップをしそうな勢いのユイナは嬉しそうに歌を歌いながらヤマトの隣を歩いていた。
「ねえユイナ、その歌はなんだい?」
聞いたことのない歌だった為、ヤマトは質問する。
「うーん……ギルドの歌かな、作詞作曲は私!」
ユイナは結構頻繁にヤマトが知らない曲を歌うので、彼は念のため確認した。たまに、ローカルなコマーシャルなどで流れている曲を歌うこともあるため、油断できないからだ。
「そっか、うん、楽しそうでいいね」
ヤマトはユイナが楽しそうな様子を見て自然と笑顔になる。
「うん! ギッルッド! ギッルッド!」
二人が笑顔で楽しく通りを進んでしばらくすると、冒険者ギルドに到着した。
「よっし、入ろう!」
ユイナはワクワクしながら勢いよく冒険者ギルドの中へと足を踏み入れる。美人であるユイナが入って来たことで、彼女へと一気に注目が集まった。騒がしかったはずのギルドが一瞬で静まり返る。
「――んん?」
なぜこれだけ注目が自分に集まっているのかをユイナは疑問に思う。彼女は人から寄せられる好意的な視線に鈍感なようだ。
実際のところ、ユイナだけでなく隣にいるヤマトと合わせて二人に注目が集まっていた。
「……なんだろ?」
ユイナに視線が集まるのはとびきりの美人だからだろうとヤマトは納得するが、自分も一緒に見られていることには違和感を感じていた。
「まあいっか、素材の買取をしてもらおうよ!」
他人からの視線をあまり気にしないユイナはすぐに切り替えて買取カウンターに向かっていく。
「あ、待って」
彼女の切り替えのはやさに、ヤマトは慌ててユイナのあとを追いかけた。
ユイナとヤマトの登場ショックはギルド内をしばらく騒然とさせた。
「いらっしゃいませ、本日はどういったご用件でしょうか?」
二人がやってきたのを確認した男性職員が受付を担当する。彼はオルグ族といって、角の生えた巨体が特徴の種族だった。
ごつい筋肉質な巨体もあって、見た目は粗野に見えがちな種族だが、彼は眼鏡をかけ、皺のないシャツにベストを羽織っており、知的な雰囲気を醸し出している。
「えっと、買取をしてもらいたいんですけど……」
ヤマトは彼に用件を伝える。オルグ族の職員ははふむ、と一度頷くと質問をする。
「それでは、こちらに品物を出して頂けますか? 全てに値段がつくかはわかりませんが、私のほうで査定させて頂きます」
リーガイア周辺の魔物についての知識は彼の頭の中に入っており、査定も滞りなく行える自信があった。
「それじゃあ出しますね。――ユイナ、少しずつ出していこう」
頷きあった二人はそれぞれ自分のカバンに手を入れて、一つずつ買い取ってもらいたいアイテムを出していく。
「ほう、魔石ですか。なかなか品質が良いようですね」
最初に二人が取り出したのは魔石で、オルグ族の職員はそれに興味を示し、査定を始めようとする。一目見ただけで良い物だとわかったからだろう。
「えぇ、まだあるのでカウンターに置きますね」
ヤマトとユイナは次々に魔石を並べていく。これらは二人が橋で倒したモンスターのものだった。全てのモンスターからドロップしたわけではなかったが、それでも二人合わせて二十三個もの魔石があった。
「――ふー、とりあえずこれで全部かな?」
「そうだね、魔石はこれで全部かな!」
一息ついたヤマトの言葉に満足げな笑みを浮かべてユイナが頷く。
しかし、オルグ族の職員は目の前の状況に困惑し、頬をヒクヒクさせていた。二人の会話の中に出た言葉『魔石はこれで全部』。つまり、他にも出せるものがあることを示していることに彼は恐れを抱いていた。
「……あ、あの、魔石以外にもあるのでしょうか?」
カウンターから落ちないようにきれいに並べられた魔石を見て、オルグ族の職員は恐る恐るといった様子で二人に尋ねる。
「あ、はい。えーっと、まだモンスターの素材とかが結構あるんですけど……とりあえず魔石だけでお願いします」
職員の反応を見てヤマトは、これ以上増えると困るのだろうと気づき、魔石だけにとどめることにする。だがそれに気づかないユイナは既にカバンに手を突っ込んで次の素材を取り出すつもりだったが、ヤマトの言葉を聞いてその手を止めた。
「あ、ありがとうございます。少々数が多いので時間を頂きますがよろしいでしょうか」
ほっとしたオルグ族の職員はヤマトたちが頷いたのを確認し、別の職員にも声をかけて、魔石の鑑定を順番に行っていく。
「……ねえねえ、ヤマト。本当によかったの?」
ひそひそと顔を寄せながらのユイナの質問は、本当に魔石だけの買取でよかったのか? というものだったが、ヤマトは頷いて返す。
「とりあえずは魔石だけ出そう。結構数が多いからそれなりの値段になるだろうし、他の素材は俺たちが製作するのに使ってもいいだろうからね……あと、さっき職員さん、額に結構な汗を浮かべてたからあれ以上になるときついんだと思う」
色々と理由をつけたものの、最後の職員の反応が最大の決め手だった。
「なるほどー、私は素材出すのに集中してたから気付かなかったなー。あは、確かに今もちょっと大変そうだね」
魔石は傷がついていると途端に粗悪品扱いになってしまう。そのため、入念なチェックが必要だった。いつもならば一度に鑑定するのは多くても片手に足りるほどなため、二十三個もの鑑定となると大慌てな様子だ。
「――あと、魔石だけでもみんなから見られていたみたいだから、これ以上に素材もとなると注目されすぎるからね」
ヤマトがちらりと視線を向けた先では冒険者たちが遠巻きに何かを互いにささやきながらヤマトたちを見ているのが分かった。
顔立ちのよい二人はギルドに入った時点から注目されていたが、先ほど大量の魔石を並べていたことを見て、更に驚かれていた。
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