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第三十八話



 橋での一件を片付けた二人は中央都市リーガイアに無事戻ることができ、宿を決めると街の散策にでていた。

「やっぱりリーガイアは大きいねー」

 感動したように目を輝かせたユイナは街並みを見ながら感想を口にする。


「後半の街に行くようになっても、リーガイアは結構大きいからねえ。プレイヤーでもずっと拠点にしてる人もいたし」

 初心者プレイヤーが一番最初に憧れる街であり、プレイヤーの中でも特に思い入れが強い街の一つが中央都市リーガイアだった。


「私もこの街は結構好きだったなあ、移動の都合を考えて別の街に移動しちゃったけどね」

 ヤマトとユイナはエンドコンテンツと呼ばれる上位プレイヤー向けのダンジョンやボス戦のために、移動しやすく上位アイテムが手に入りやすい街へと拠点を移していた。


「ワープ系の移動方法が使えないから、拠点を構える時はじっくりと考えないとかもねえ」

 一度立ち寄った街に瞬時に戻れる誰もが使えた魔法『ワープ』と決まった拠点に戻ることができる『リワープ』――今はこの二つを使用することはできなかった。


「だねえ……あ、ヤマト! あそこのお店行ってみようよ!」

 話をしている最中に何かを見つけたようにユイナは走って道すがらに出ている屋台へと走って行った。

「あ、待って! 俺も食べる!」

 二人とも美味しいものには目がなく、そして地球では食べられないような料理が並んでいることから、お金を出し合って片っ端から屋台で出されているものを購入していった。




 一通り買い物を終えるとヤマトとユイナは街のはずれにある自然がたくさんの大きな公園に移動して、そこで食事をとることにする。ベンチがいくつも等間隔に並び、ヤマトたちのほかにも食事や休憩している人がいた。


「んんーっ、美味しい!」

 口いっぱいに広がる味わいを噛みしめるように喜んでいるユイナが手にしているのはバゲットサンドだった。中に挟まれているのはレタスと、甘辛いソースとそこまでは一般的なものだったが、メインの肉がデビルウルフの肉だった。

 さっぱりしていながらもしっかりと引き締まったデビルウルフの肉の味はソースやパンと見事にマッチしていた。


「こっちも美味しいよ」

 ヤマトが食べているのは、バードの串焼きだった。焼き鳥のようで、それよりも肉にうま味があるバードの串焼き。

 バードは戦闘をするモンスターであるため、普段からよく動いており丸々とした見た目に反して筋肉がついている。更に倒すとその筋肉から酵素が発生し、自然に柔らかくなるという特徴を持っていた。


「あっ、いいなあ。交換しよ!」

 羨ましそうに願い出たユイナはバゲットサンドをヤマトに渡すと、交換でバードの串焼きを受け取る。

「うん、こっちも美味しいね」

 さっそくヤマトはバゲットサンドにかぶりついてその味を堪能する。デビルウルフの肉は硬いが、それを柔らかく仕込んであり、よい香りのパンも硬すぎず、歯で容易に噛み切れるものだった。


「でしょー! あっ、こっちも美味しい!」

 二人はそうやって料理を分け合いながらその味に舌鼓をうち、初めて二人でのこの世界を満喫していた。


 





「――お、ヤマトじゃないか」

 二人で食事をしていたところ、ちょうど声をかけられる。ここは公園であるため、様々な人が訪れ、その中に知り合いがいても不思議ではなかった。


「アイザック」

 声がした方向に二人が目を向けるとちょうどデザルガの街で知り合ったアイザックがいた。ヤマトがは食事の手を止めて彼の名前を呼ぶ。

 彼らのパーティもヤマトに遅れて、リーガイアへと来ていた。実入りのいい護衛クエストがあったためのことだ。


「……ん? ヤマト、知り合いさん?」

 ぺろりと口端のソースを舐めたユイナも食事を中断して、きょとんとした表情でヤマトに質問する。知り合いなら紹介してくれということを意味していた。


「あぁ、彼はアイザック。俺が谷へ狩りに行った時に助けたパーティのリーダーだよ」

 優しく微笑みながらヤマトが紹介すると、戸惑いながらもアイザックが頭を軽く下げる。彼の顔には、こっちの美人は一体誰だよという疑問がありありと浮かんでいた。


「えーっと、彼女は俺の奥さんでユイナ」

「ヤマトの妻のユイナです。よろしくお願いします!」

 奥さんと紹介してくれたのが嬉しかったユイナは満面の笑顔でアイザックに挨拶をした。


 ユイナは誰から見ても美人といえるほどの女性だ。肩で切りそろえられたワインレッドの髪は活発さもにじませるが、大きく愛らしい目とそれにあったアイドル顔負けの可愛い顔立ちは眩い程で、誰からも愛される人だった。


 そんな彼女に満面の笑みで挨拶されたアイザックは呆然とした表情で口をポカンとあけている。

「……え?」

 そして、それだけ口にするのが精いっぱいだった。


 ヤマトはなぜアイザックがこんな反応をするのか予想がついていたが、よくわかっていないユイナはアイザックの反応があまりに薄いため、こてんと首を傾げていた。


「あー、まあそういうわけなんだ。特に聞かれなかったから言わなかったんだけど……」

「――って言えよ! おいおい、こんな美人の奥さんがいたのかよ! いやあ、びっくりして声が出なかったぞ!」

 アイザックは我を取り戻すと、そう言いながらヤマトの背中をバシバシ叩いていた。


「ごめんごめん、こっちに来てから事情があって離れ離れになっていたんだけどね。やっと会えたんだ」

 痛みに苦笑しつつもヤマトはそう口にすると、ユイナのことを優しい目で見つめていた。

「ヤマト……」

 ヤマトと見つめ合うユイナの瞳もうるんでいた。


「おいおい! 俺を忘れていちゃつくなって! まさか妻帯者だったとはなあ……――フユの酒に付き合ってやらないとか……はあ」

 最後のほうの呟きは二人の耳には届かなかったが、この街のどこかでフユがくしゃみをしていたのはこれが原因だったのだろう。




「それじゃ、俺たちはご飯の続きを食べてもいいかな?」

 しばしユイナと見つめ合ったのち、ヤマトは手に持っている串に視線を送ってからアイザックに確認する。

「お、おう、邪魔して悪かったな。この街の飯は美味いからな、ゆっくり楽しんでくれ」

 それだけ言うと困ったように笑うアイザックは首をひねりながら仲間のもとへと向かっていた。ヤマトに会うことを密かに楽しみにしているであろうフユになんと話したものかと思うと、彼は今から憂鬱だった。


お読みいただきありがとうございます。

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