第三十七話
ヤマトは背中合わせのユイナに持っていたアイテムをいくつか渡しておく。
「最初からこうしていればよかったね」
「そうかもしれないけど、ありがと! すっごく助かる!」
はにかむように笑ったユイナはヤマトがいることが嬉しく、共に戦っていると、ゲームの頃、彼と素材集めのためにモンスターと戦っていたことを思い出していた。
「ふー……結構倒したつもりだけど、まだそれなりにいるね」
「だねえ、これをクエストと考えたらどこかにモンスターを誘引しているものがあって、それを壊したら終わりとかありそうだけど……」
ゲーム時代を思い出したユイナの発言に、ヤマトとユイナは周囲に視線を送り、それらしいものがないか確認する。しかし、それらしいものは見当たらなかった。
「そうそう簡単に見つかるようなものだったら、すぐに気づいているよねえ……」
がっくりと肩を落とすユイナのその言葉を聞いてヤマトは別の考え方をする。
「いや、だったら、ここにいる俺たちからは見づらい場所にあるのかも?」
ヤマトはモンスターを倒しつつ、橋から離れると、今度は橋の下に回り込んでいく。
「――あった!」
ヤマトが思っていたとおり、ゲーム時代でいう【クエストの種】と思しき装置は橋の下に仕掛けられていた。守るようにモンスターが一匹待ち構えている。
「これは、モンスターを引き寄せ匂いを発する魔道具か……これさえ壊せばっと」
クリムゾンソードでモンスターごとその魔道具を斬ると、ぼわっと黒いオーラを一瞬発してから魔道具が霧散した。
何か変化があったかとヤマトはユイナのもとへと急ぎ足で戻る。
「あっ、ヤマト。なんか急にモンスターの動きが鈍くなって、中にはどっかに逃げちゃったやつもいたよー!」
そして、残っているモンスターはユイナの矢と、離れて戦っているエクリプスの活躍によってみるみるうちに倒されていた。
「やっぱり橋の下にトリガーになるアイテムがあったよ。魔物を惹きつける匂いを出す魔道具だったみたいだ。壊したら消えちゃったけど」
ヤマトは両手を広げてそう言う。一体何だったのか? といった表情だった。
《クエスト:闇の鼓動をクリアしました》
「「!?」」
その時、ヤマトとユイナはそのメッセージが頭の中に響いたことに驚いた。
「ヤ、ヤマト! 今の聞こえた!?」
「う、うん、聞こえた……」
脳裏に聞こえたそのメッセージは、いわゆるシステムメッセージというものであり、ゲーム時代にもクリアすると表示されていたものだった。
「でも、なんでこれだけ急に聞こえてきたんだろ? 俺は冒険者ギルドでいくつかクエストをクリアしているんだけど……」
「私もだよー、なんだろうね? それに、闇の鼓動なんてクエストあったっけ?」
不思議そうなユイナの疑問はヤマトも思っていたことであり、腕を組んで首を傾げていた。
「うーん、なんか色々違うところがあるのかも。……それよりも、やっと会えたんだから再会のハグしようよ! ほらっ!」
ユイナはわからないことに頭を悩ませるよりも、ヤマトとの再会を喜びたいようだった。ぱっと手を広げて愛らしく小首を傾げて待ち構えている。
「えっ!? うーん、まあいいか。誰もいないし」
一瞬ぎょっと驚き照れたヤマト。公衆の面前でやるのは憚られたが、誰もいない今ならいいだろうと苦笑交じりに許可を出す。
「えへへ……ヤマトーーーー!!」
すると、ユイナは大きな声で名前を呼びながら飛びつくようにぎゅーっとヤマトに抱き着いた。鍛えられた彼の胸元に甘えるように頬ずりしている。
「ユイナ……」
難なく受け止めたヤマトも甘く優しい表情で感じ入るように目を閉じ、彼女の身体をそっと抱きしめる。
ようやく再会できた二人。愛しい者の存在は彼らの心を暖かく満たした。
しばらくそうしていると、エクリプスが別の馬を連れ立って戻って来た。
「あ、馬くん来たんだ。無事でよかったあ」
ヤマトの腕の中から顔を上げたユイナは満足げな表情で彼から離れると自分の馬の頭を優しく撫でる。
「エクリプスくんだっけ? キミもありがとね!」
続いて隣りにいたエクリプスの頭も撫でる。彼は大人しく撫でられ、気持ちよさそうに目を細めていた。
「へえ、エクリプスはあんまり懐かないってお店の人が言ってたけど、ユイナも大丈夫みたいだね」
ヤマトは素直に撫でられているエクリプスを見て少し驚いていた。
「うーん……やっぱり人柄かな! なんてね、えへへっ」
実際にはそのとおりで、エクリプスはヤマトに懐いたのと同様にユイナの人柄に惹かれているようだった。それを表すようにエクリプスはそっと頬を彼女に寄せて機嫌良くしている。
「さて、それじゃ中央都市リーガイアに戻ろうか」
嬉しそうに笑ったヤマトはエクリプスの頭を撫でながらユイナに呼びかける。
「うん、楽しみー! エルブン族の街も綺麗だったけど、やっぱリーガイアは大きいからね!」
大きく頷いたユイナはこれから向かう街に思いをはせていた。
「俺もすぐに街を出たからユイナとゆっくり回りたいね」
リーガイアの滞在期間が短かったヤマトは、改めてユイナとともに回れることを楽しみにしていた。
「えへへー、やっぱり一緒がいいよね!」
ゲームの世界、もしくはゲームに似た世界にいる二人。これまでにも色々な景色や人にそれぞれが出会っていたが、やはり互いに最愛のパートナーとともにいるのが一番安心できた。
二人はそれぞれの馬に乗ると、ゆっくりと隣に並びながらリーガイアへと向かっていった。
「一つ目は壊されたか……」
淡々としたその声は二人の耳には届くことはなかった……。
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