第三十六話
「ユイナ、よかった、無事かい!?」
近寄ってきたモンスターを斬り捨てたヤマトは周囲のモンスターの動きを確認しながら、背に庇うユイナへと声をかける。
「ヤマト! ヤマト! ヤマトおおおおっ!」
背中に縋りつくようにくっついたユイナはヤマトに会えたことに色々な思いがこみ上げてボロボロと涙を流していた。
「ゆっくり再会を祝いたいところだけど、この状況をなんとかしないとだな……ユイナ、パーティに誘うぞ!」
久しぶりの彼女のぬくもりに安堵を覚えつつも、ヤマトは素早いメニュー操作でユイナをパーティに誘う。
「――これは!? ……うん、OK!」
涙を残しつつもユイナは目の前にパーティへの勧誘メニューが開いたことに一瞬だけ驚いたが、乱暴に目を拭ってすぐにOKボタンを押してヤマトのパーティに参加した。
エンピリアルオンラインでは、パーティを組むことでメリットが発生する。
二人で組んだ場合は体力、攻撃力、防御力が十%アップする。三人の場合は十五%、四人は二十%と最大の六人パーティで三十%アップするというものだった。
「これで十%……あれ? もうちょっと多いかも?」
予想していたものと違う数値にユイナは自分のステータスを確認して首を傾げていた。
「ユイナ、この敏捷の腕輪をつけて。少し戦いやすくなるはずだから」
ヤマトは未だモンスターたちが距離をとっているのを見て、急いで包装を剥ぐと腕輪をユイナへと渡す。
「う、うん……それで、数値だけど」
戸惑うユイナが腕輪を装備しながらヤマトに能力の上昇値に関して質問をしようとすると、馬のいななきが聞こえてきた。
「――ヒヒーン!」
それはエクリプスの声であり、彼は既にモンスターとの戦闘に入っていた。
「え!? あ、あの馬は?」
「あいつの名前はエクリプス、俺をここまで連れて来てくれた馬で、戦闘の相方だよ!」
この世界では動物に戦闘を学ばせて、ともに戦うことも可能だった。周囲の魔物に囲まれようとものともせずエクリプスは奮闘を見せている。
これでユイナは上昇値が二人の時よりも高い理由がわかり、表情も晴れていた。
「よーっし! エクリプスに負けないようにがんばるぞ! ヤマト、やろ!」
「うん!」
二人が揃ったことで、能力以上に心が満たされ、モンスターに負けないという強い気持ちが生まれていた。
最初にヤマトが剣で斬りかかり、モンスターを倒していく。その時に別の角度から攻撃をしかけてきたモンスターはユイナが短剣で攻撃する。二人の鮮やかな連携にモンスターは徐々に押され始めていた。
「ユイナ、これも使って」
ヤマトは一瞬の隙を見て取り出した体力回復薬をユイナに投げ渡す。
「ありがと……んぐぅ、にがーいっ!」
見覚えのある容器に入ったそれをごくごくと飲み干すものの回復薬の味は苦みが強く、ユイナの表情は苦み走ったものになっていた。だがその苦みに耐えたおかげか、細かい傷は塞がり、身体の疲労も幾分和らいだように感じた。
「ふふっ、ゲームの頃は味なんてなかったからね。それとこれも渡しておくよ」
彼女の無邪気な表情を見て優しく笑ったヤマトは右手で剣を振るい、左手でアイテムを取り出してユイナへと投げ渡す。それをキャッチした彼女の表情はぱあっと明るくなる。
「……これは! ありがとう、ちょうど切れてて困ってたの!」
ヤマトが渡したのは矢筒。これは武器屋で買ったものではなく、道具屋が用意してくれた旅道具セットになぜか入っていたものだった。
気合を入れなおしたユイナは矢筒を交換すると、今度は弓を装備して離れている敵をめがけて矢を放っていく。
「おー、やっぱりユイナは弓を使ってるのが様になるね」
ヤマトはユイナの弓術を見てそう感想を漏らす。ヤマトという心強い存在を得た彼女は先ほどよりも的確な弓捌きで敵を次々に倒す。
ユイナはリアルでは学生時代に弓道部に所属しており、狙った的は必ず外さないほど弓矢を使うのが得意だった。
「っで、でも、結構システムで補正されているみたいだからそのおかげかも……?」
褒められてまんざらでもないといった表情だったが、口をついて出たのは謙遜の言葉だった。
「そうかな? でも、ユイナがそうやって矢で後方から敵を討ってくれると安心して前で戦えるよ!」
彼女の照れた表情に嬉しそうに目を細めたヤマトは徐々にユイナから距離をとって前線を押し上げていく。
「任せて! ヤマトの背中は私が守るんだから!」
一緒に戦える喜びに胸が打ち震えるなか、ユイナは気持ちを引き締め直してヤマトを援護するように矢を放つ。
先陣を切るように飛び出したヤマトは次々にモンスターを倒していく。それも、ほとんどが一撃撃破だった。
彼が手にしている剣はクリムゾンソード。レベルが上がったヤマトは新たな剣を使って修羅のごとく次々にモンスターを倒していた。
本来であれば、モンスターは斬られた場所から炎を出して更なる追加ダメージを与えるところだったが、一撃で絶命するモンスターはそのまま倒れていくだけだった。
「やっぱりこのレベルでこの剣が使えるのは大きいな」
ゲーム時代に二十五レベルからクリムゾンソードを使用できればという願望が叶った今、ヤマトは剣を振るうことが楽しくなっていた。
「ヤマト、油断しないでね!」
高揚感で微笑んでいた今まさにデビルウルフがヤマトに噛みつこうとしていたのをユイナが矢で倒したところだった。
「うっ、ごめん。剣ばかりに集中していちゃダメだね、《ウォーターボール》!」
ヤマトはユイナに注意されて、戦闘方法が偏っていたことに気づいて魔法を組み込んだ戦い方に変更していく。
「わぁ! ヤマトってば魔法も覚えたんだ! いいなあ、私も色々試したいなー」
ヤマトの魔法に羨ましそうな表情を見せたユイナは弓と短剣にのみ特化した成長をさせていて、魔法には手を出していなかった。
「ちょっと依頼に必要だったからね!」
戦闘の最中だというのに、二人は普段通りの会話をしていた。それほどに二人が揃ったというのは大きいことだった。離れたところではエクリプスもかなりのモンスターを倒しているところだ。
「――それにしても、ここってこんなにモンスター多かったっけ?」
ちょうどユイナと背中合わせでモンスターと対峙したヤマトが改めてそんな疑問を口にした。
「さすがにここまでじゃなかったと思うよ? だから私もいけると思って戦ってたんだし」
二人はゲーム時代との変化をこんなところでも感じていた。
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