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第三十四話



「――はっ!」

 ベッドの上にぐったりと寝ていたヤマトは目が覚めるとがばっと起き上がる。

「……ぐっ」

 そして、頭の痛みに襲われ、こらえるように手をあてた。


「これは二日酔いだな……」

 昨日は噴水にいるところをリーダーの男に掴まって、そのまま引っ張られ、二次会に参加することになった。ヤマトは元々酒に強いため、周囲が面白がってどんどん注いでいき、かなりの量を飲まされたが、完全につぶれるまではいかなかった。彼らがつぶれたことでなんとか宿に戻るとそのまま眠ってしまっていた。


「ふー……」

 部屋の整備をした時に従業員が置いていってくれたのであろう飲料用の水をコップに注ぐと、ヤマトはそれを飲んで一息つく。

「ユイナのことだし、絶対に最短距離を選ぶよなあ。――安全を……いや、やっぱり最短距離だよなあ」

 もしかしたらと一瞬だけ考えるが、すぐにそれはないと緩く首を振って自分の考えを打ち消した。


 ヤマトは水を飲んで少し楽になったため、ベッドから立ちあがり、自分の状態を確認する。


「ふらつきは、多分ない。頭痛は……おさまってきた。気持ち悪さも、ない……はず。いけるか? いけるね」

 自分に言い聞かすようにして、ヤマトは防具を身につけていく。


 リーガイアから出発して、ユイナとの合流を目指すにはこちらが少し早めに動かないといけない。ヤマトの知識を照らし合わせると、おそらくルフィナから橋までは二日。反対にリーガイアから橋までは二日半かかってしまう。


「ユイナがゆっくりと進んでくれればいいんだけど、絶対にないよなあ」

 彼女の性格を考えてそんな甘い考えは捨てたほうがいいと、着替えの手を少し早める。


 ユイナのことを一度心配しだすと止まらなくなり、ヤマトの気持ちはどんどん落ち着かなくなっていく。

 

 かなり急いで階下へと降りてチェックアウトの手続きをする。ヤマトの焦りが伝わったのか、宿の店員は最速の動きで手続きをしてくれた。

「それでは、一晩でしたがお世話になりました。またこの街に来ることがあったら、こちらの宿を使わせてもらいます。それでは!」


 慌ただしく挨拶を済ませ、外に出ると既にエクリプスも準備を終えており、ヤマトが来るのを行儀よく待っていた。早速騎乗するとヤマトはそっとエクリプスの背を撫でる。

「エクリプス。悪いけど、街を出たら少し急いでもらうからそのつもりでいてくれ」

「ブルル」

 了解とエクリプスは鼻を鳴らしながら頷いていた。


 二人は街の中を移動する時はゆっくりと進んでいき、周囲から怪しまれないように、また安全を重視して移動していた。


 西門を出るとヤマトが合図する。

「――エクリプス」

「ヒヒーン!」

 皆までいうなと一ついななくとエクリプスはヤマトに応えて勢いよく走り出した。


 向かうは中間にある橋。途中休憩を入れながらもヤマトとエクリプスは速度を上げてそこを目指していた。





 ★





「昨日の通話だとヤマトもこっちに向かってるって言ってたけど……すぐ寝ちゃったからなあ」

 ユイナもヤマトと同様に馬を購入して中央都市リーガイアへと向かっていた。慣れない馬での移動や周囲の索敵をしなければならないことから、ユイナはすっかり疲れがたまっていて、昼間に移動、夜はすぐ寝るという生活を送っている。


「それにしても、ヤマトも心配性だよねー……いくらモンスターが多いからって、私だってレベルが上がってるんだから橋くらい一人でも通過できるのに……」

 お姫様かと思うくらいにただ待っていろと言うヤマトの発言を思い出して、不貞腐れるように唇を尖らせたユイナ。彼女の旅路も順調で、予定どおり移動開始から二日目の昼過ぎには橋の近くまで到着していた。


 この周囲にいるモンスターがいくら多いといっても、一度に現れる最大は十体程度であり、順番に釣って各個撃破してすぐに走り抜ければ問題ないとユイナは考えていた。


「うん、いけるいける!」

 早くヤマトに会いたいと心が急かすため、ユイナの手綱を握る手は止まることなく、橋へと向かっていく。


 そうはいっても周囲の気配、そして魔物がいるかどうかをミニマップで確認しながら慎重に進んでいく。だが予想していたものよりもモンスターの数は少なく映っている。

「えっと、五体か……そんなに強くもないみたい?」

 確認できたモンスターの種類は全てゴブリン種で、レベルは十から十五レベル相当であり、レベル二十のユイナが一人で戦っても余裕で切り抜けられる相手だった。


「ちょっと待っててね」

 ユイナはぱっと馬を降りて優しくその頭を撫でると魔物に向かっていく。



 颯爽と武器を構えつつ走り出した彼女が選んだ武器は二つ。



「――えいっ!」

 一つは遠距離武器の弓。エルブン族は弓を装備した際に補正がかかり、威力と命中率が上がる。その効果は今の世界でも有効であり、他種族が同じ力で撃った場合よりも確実に強力な攻撃になっている。


 走りながらユイナが放った矢は、橋の周囲にたむろしているモンスターのうちの一体――デビルゴブリンの頭に吸い込まれるように鋭く突き刺さり、それがとどめとなった。


「よーっし、いける! ――それっ、それっ!」

 最初の一撃が気持ちよく決まったことで気分が上昇したユイナは敵をかく乱するように二射、三射と連続して矢を放っていく。その全てが先ほどと同様にモンスターの頭を的確に貫いていた。


 これで合計三体倒したが、その頃には別の個体が攻撃元であるユイナを見つけ、敵意を向けつつ走って距離を詰めてくる。低ランクモンスターのデビルゴブリンが四体、そして上位個体のソルジャーゴブリンが二体、更にその上のジェネラルゴブリンが一体、徒党を組んで襲いかかる。


「たくさんいるけど、まだいける!」

 最初に確認した数より増えていることに気づきながらも、まだ距離があるため、ユイナは慌てずに狙いを定めて鋭く数本の矢を放つ。特殊な属性矢ではないため、上位個体には防がれてしまうだろうと考え、数を減らすためにデビルゴブリンのみを狙う。


 その作戦は成功し、残ったのは上位個体のみとなる。

「それじゃあ、今度はこっちの番だね」

 好戦的に微笑んだユイナが弓をしまって、次に取り出したのは短剣だった。以前の彼女の戦闘スタイルとは違ったが、ルフィナで買えた武器で一番手ごろだったものだ。


 今のユイナは遠距離では弓で戦い、距離をつめられた場合は短剣で近接戦闘をというスタイルをとっていた。


「行っくぞおおおお!」

 短剣を構えた猪突猛進型のユイナは待ちに徹さず、自ら動き出しモンスターの群れへと向かって行った。


お読みいただきありがとうございます。

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