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第三十三話


 アクセサリを購入することで能力が上がったヤマトは、とりあえずアクセサリのみの購入にとどめ、防具はユイナと合流してから考えることにする。


「さて、それじゃエルブンの始まりの街ルフィナの情報を集めるとするか」

 おおよその位置はわかっていたが、ゲーム時代には他種族の街に行くことが少なかったため、正確な場所を掴めずにいた。


「しかしまいったなあ。ゲームだったら情報屋かフレンドに聞くんだけど……」

 街の中央にある噴水の前で悩むヤマト。ぐるりと街を見渡せばたくさんの人が行き交っているが、この世界で情報を集める際にどういった選択肢があるのか、彼はそれを掴めずにいた。


「ギルドで聞いてみるか、いやそれよりも……」

 冒険者ギルドに足を向けようかと考えたが、混雑具合を考えるとクエスト関連以外で相手をしてもらうのは難しいかもしれないと考える。


 そして、次に思いついた案を選択することにする。





「――ガハハッ! 飲め飲めっ!」

 ビールの注がれたジョッキ同士がぶつかりあう音、冒険譚を話す声、愚痴を言いあう者たち、様々な音によって店の中はにぎわっていた。


「あ、ありがとうございます。それでルフィナの場所なんですけど」

 そう、ヤマトが選んだ場所は酒場だった。冒険者が多い街であれば、多くの情報が酒場に集まっているはずだと考えた結果だった。


 とある冒険者パーティのテーブルに誘われたヤマトは酒がなみなみと注がれたジョッキを持ちつつ、酔った冒険者に問いかける。


「あぁ、そうだったな――おい、話してやれ!」

 ヤマトは酒場に入るとすぐに酒の入った冒険者に絡まれることとなるが、うまく話を進めたことで彼らのテーブルに溶け込むことができていた。

 酒に酔いながらもヤマトが聞きたがっている話の事を思い出したようで、仲間と思しき男性に大きな声で冒険者は呼びかけた。


「そんな大きな声を出さなくても聞こえますよ……うちのリーダーがすいません。ルフィナについては私から話させてもらいますね」

 リーダーの男の代わりに謝ったのはエルブン族の優しそうな顔立ちの魔法使いの男性だった。細身の彼は熟練の魔法使いであり、リーダーである巨狼族の戦士の歯止め役だった。


「お願いします」

 笑顔とともにヤマトは礼儀正しく頭を下げて説明を待った。

「ふふ、ヤマト君は冒険者なのにとても礼儀正しいのですね。私のイメージする冒険者といえばうちのリーダーみたいな者になっているので新鮮ですよ」

 一瞬驚いたように目を見開いたあと、柔和な笑顔でヤマトに対する感想を口にする彼の名はデルム。


「デルムさんに対する俺の感想も同じですよ。あの……それでルフィナの話ですが……」

「おぉ、そうでした。ルフィナですが、この街の西門から出て道なりに数日行けば辿りつくはずです。大昔は他種族に対して厳しく入場制限をかけていたこともありますが、今ではそんなことはなく、ヤマト君も入れます」

 位置に関しての情報は自分が持っていた大体の認識と大差はなかった。予想以上に遠くにあればユイナに辛い旅を強いてしまうことになっていただろう。


「道中のモンスターはどうですか? 結構多いって話を前に聞いたことがあるんですが……」

 地理情報以上に、そのことががヤマトの最大の懸念事項だった。

「あぁ、そうですね。街の周辺や、こちらの西門を出てしばらくは大丈夫なんですが……途中に橋があるのです。その周辺だけはなぜかモンスターが多くて迂回する者も少なくないですね」


 これこそエルブン族を選んだプレイヤーには厄災とまで言われたバランスブレイカー。なぜかその橋の周辺にだけ多くのモンスターが生息していて、中央都市リーガイアを目指すエルブン族プレイヤーを苦しめていた。


「……今も、なんですね……それに対する対策は何かないんですか?」

 ゲーム時代は、大きなギルドに所属しているプレイヤーが初心者プレイヤーの救済として定期的に周囲のモンスターを狩っていた。いつしか経験者と交流できる場にもなり、苦しむエルブン族プレイヤーはずいぶん減ったと聞いていた。


「うーん、やはり迂回するのが一番かもしれませんね。ただあの橋を選ばないとなると、かなりの遠回りになってしまって、数日で到着するところを十日以上かかってしまうのが難点ですね」

 近道を選べば危険が、遠回りをすればかなりの時間が――リスクをとるか安全をとるかどちらがいいかといえば後者なのが一般的だが、ヤマトは早くユイナに会いたい気持ちが強かった。


「なるほど……なかなか難しい選択ですね。教えて頂いてありがとうございます」

 ユイナのことを思いつつ、顔を上げたヤマトは笑顔で素直にデルムに礼を言う。彼が迂回することを進めるのも、先ほど知り合ったばかりとはいえ、知り合った相手が命を落とすことを望んでいなかったからだった。


 しばらく彼らの宴に参加したヤマトは頃合いを見て、いくばくかの金をデルムに渡して店をあとにする。






「――レベルも上がってる、アクセサリも新しくした。きっと大丈夫なはずだ」

 夜になると酒場など一部を除けば街は静寂に包まれる。曇り一つない空で星々が輝くのを見上げながら、今夜の通話でユイナのもとへ向かうことを告げようと考えているヤマト。

 

 しかしユイナも大人しくヤマトのことをただ待つだけの性格ではないことをこの時の彼は忘れていた。


 酒の入った身体であるため、街の中央にある噴水まで行ってその水で火照った顔を洗う。生活用水にも使われている水は魔道具によって常に生み出されており、冷たく清潔であった。


 しばらく心地よい夜風にあたっていると、ユイナから通話が入る。

「……あれ、ユイナ? 今日は早いんだね」

『うん、私も外だから早めに休もうと思って早く通話してみたんだ。よかった、ヤマトも通話出られる状況で』

 外で食事中ならば通話に出るわけにもいかないが、今は周囲に誰もいない状況であるため、ヤマトは通話をとっていた。もちろん視認だけでなく、気配を探ることも忘れない。


「どうかしたの? ――ちょっと待って、外ってどういうことだい?」

 ユイナの思わぬ発言に訝しげな表情になったヤマトは嫌な予感を感じている。

『うん、私もルフィナの街を出発したんだ。二人でリーガイアを目指せば早く会えると思ってさー』


「えっ!? お、俺はもうリーガイアに着いてるよ。だから俺が迎えにいくから!」

 のんきなユイナの言葉に驚きを隠せないヤマトは例の橋の危険性を考えて慌てたようにそう提案する。いくら経験者の彼女であっても橋に出るモンスターの量は異常なのだ。


『もー……じゃあ、途中で合流しようよ。私はこのまま真っすぐリーガイアに向かうから、ヤマトは真っすぐルフィナを目指せば途中で会えるでしょ?』

 声音から頬をぷくりと膨らませて不機嫌になっているユイナの姿がヤマトにははっきりと思い浮かべられた。だが次の瞬間には名案だといわんばかりにユイナの声は少し大きくなる。


「いや!……っ」

 咎めるようにヤマトが声をあげようとするが、ふいに人の気配を感じて声を抑える。

「おう、ヤマトじゃねーか! 先に出たと思ったらこんな場所にいたのか!」

 それは先ほど宿で情報をくれた面々だった。お酒に酔って上機嫌の巨狼族の男が肩にのしかかるように絡んでくる。


『? 誰か来たみたいだね、じゃあ私はもう寝るからー、おやすみっ!』

「――ちょっ!」

 ヤマトはなんとか通話を続けようと思ったが、彼らがいる前でそれをするのは難しく、不安を覚えつつも今日の通話を断念することにした。

 

 寝るとなるとあっという間に夢の中へと入っていくユイナの寝つきの良さを考えて、あとで通話する案は先に潰されている。


お読みいただきありがとうございます。

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