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第三十一話


 ここまでの旅費と宿代で金を使ってきたヤマトは再び稼ぎ口を探すためにリーガイアの冒険者ギルドへと向かうことにする。


 この街は各種族の始まりの街の中央に位置する街で、人の出入りも多くいつも活気があり、街中も夜になっても人が行き交っているような状況だった。


「確かこの街の冒険者ギルドはデカイんだよなあ」

 記憶とマップを頼りに冒険者ギルドのある通りへと向かうとひと際大きな建物が見えてくる。

「あれか……改めてみるとでかいな」

 大きな街であり、宿も大きく、道に並ぶ店も大きなものが多かったが、その中でも冒険者ギルドは際立って大きかった。


「こんにちは……」

 この状態になってからは初めて訪れるギルドであるため、ヤマトはやや小さな声で挨拶をしながらギルドへと入っていく。


 ギルド内は冒険者であふれかえっていた。当然ながら話し声によってヤマトの挨拶の声はかき消えてしまう。

「すごいなあ……」

 様々な人たちでごった返す室内の様子に感動したように見回すヤマト。ところどころにテーブルや椅子が置いてあり、そこで今日の冒険の話、クエストの話、素材の話、これから向かう場所のはなしなどを思い思いに話している。


 人にぶつからないように気を付けながらヤマトはクエストボードの前へと移動していく。大きな街であれば、それだけクエストの種類も多く、大きなクエストボードにそれこそ埋め尽くさんと言わんばかりにクエスト用紙が張り出されている。ヤマトが受けられるものも必然的に増えていた。

「どれがいいかなあ?」

 ヤマトはそう呟きながらクエストが書かれた用紙を見ていく。


「あっ、これはいいな」

 気になったものを見つけたヤマトは一枚の用紙を剥がして受付へと持っていく。

「すいません」

 ギルド内は混雑していたが、大きなギルドだけあり受付の数も多く、たくさん利用者がいても今は二つほど空いていた。


「はい、なんでしょうか?」

 担当してくれた受付職員はエルブン族の男性で、眼鏡をかけた奥は鋭い目つきだった。後ろの下の方で結われた髪からは清潔さを感じる。

「このクエストを受けたいのですが」

 だがヤマトはその視線に臆せず、用紙をカウンターの上に出す。


「それではカードの提示をお願いします」

「はい、お願いします」

 それはEランクのクエストでヤマトがギリギリ受けられるランクのクエストだった。


「それではレッサーリザード鱗の回収、最低十枚からのクエストの受注を承認します」

 彼の手際は良く、すぐにクエストの受注が完了する。淡々とした口調は機械的な印象を受けた。

「確認ですけど、納品はあちらのカウンターでいいんですか?」

 ヤマトは端にある少し様子の違うカウンターを指差した。


「はい、そちらで構いません。また混雑時でなければこちらでの報告も可能です」

 さすがは大きなギルドであり、対応も融通がきくようだった。


「じゃあ、早速いいですか? 前の街で倒したモンスターがちょうどレッサーリザードで、鱗も結構とれたんでそれを納品したいんですが」

 ヤマトが既に素材を持っていると聞いて、受付職員の右の眉尻が少し上がった。


「なるほど……それではこちらに出して頂けますか? 先ほども説明しましたが、最低十枚からになっています」

 こういったパターンはないこともないが、大抵の場合が粗雑に扱った素材を揃えてクエスト達成の実績を作ろうとする者が多かった。だからこそ彼の目は一層厳しさを増す。


「それではこれくらいかな?」

 気にした様子もなくヤマトがカバンから出したレッサーリザードの鱗の数は三十枚。まだカバンの中にはストックがあったが、これでも多いと思われかねないのでここで止めておく。


「これは……」

 最初は訝しげだった受付職員は意外そうな声を上げ、くいっと眼鏡を直すとじっくり一枚一枚、鱗を確認していく。

 どうですか? と聞きたいところだったが、鑑定の邪魔をしては申し訳ないと思い、ヤマトは大人しく待つことにする。


 三十枚全ての確認を終えたところで再びくいっと眼鏡を直した受付職員はヤマトに確認をとる。

「――これはあなたがお一人で?」

「うーん……まあ、そのへんは秘密ということで」

 色々と詮索されるのは面倒だと考えたヤマトは困ったように微笑みつつ返事を濁す。


「そうですか……三十枚全て確認しましたが、どれも傷がほとんどなく高品質のものです。このクエストは提携している防具屋がギルドを通して発行したものなので、こちらの裁量で少し多めに報酬を支払いたいと思います」

 深く聞き入ることはせず、男性職員はヤマトが持ってきた素材の買取を逃すまいとあえて好条件を提示した。


「ありがとうございます。ちょっと金欠だったので助かります! ……そうだ、もしかしてこれも買い取ってもらえたりしますか?」

 多めの報酬という言葉に気をよくしたヤマトはレッサーリザードデグズの鱗を五枚ほどカウンターの上に並べる。


「これは……っ!」

 男性職員は思わず大きな声をあげそうになる自分の口を慌てて自分で覆った。周囲のざわめきのおかげで彼の声はかき消えていた。

「……レッサーリザードデグズの鱗なんですけど、種類が違うから駄目ですかね?」

 男性職員の驚きようからヤマトも他者に聞こえないように少しひそめた声で質問をする。


「いやいや、とんでもない! ぜひ買いとらせて下さい!」

 ハッとしたように我に返った男性職員はヤマトの気が変わらないようにとすぐに鑑定を始めていく。こちらももちろん全て高品質のものであり、上位素材とあればこの機会を逃す手はないと考えていた。


「値段はどれくらいになりますか?」

 枚数が通常のレッサーリザードと比較して少な目であるため、ヤマトは安いかもしれないと考えての質問だった。


「そうですね、クエストの報酬と合わせて……これくらいでいかがでしょうか?」

 考え込んだ男性職員が出したそれはヤマトが思っていた以上の金額であったため、ぱあっと表情を明るくして即答する。

「是非お願いします!」


 デグズはこの周辺ではなかなかお目にかかることができないモンスターであるため、素材そのものが持ち込まれることがめったにない。買取金額に色がつくのは当然のことだ。

 だがヤマトからしたらたまたま遭遇したモンスターから得た素材が高く買い取ってもらえてとてもラッキーだった。


 結果としてヤマトと男性職員はともにほくほく顔となる。

 

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