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第二十八話


 夕食を食べ終えて宿でしっかり英気を養ったヤマトは翌朝、宿をチェックアウトして馬屋に向かい、エクリプスを引き取ることにする。


「ヒヒーン!」

 ヤマトの姿を見つけるとエクリプスはすぐに近くまで来て嬉しそうに顔をヤマトへと擦り付けた。

「おぉ、よしよしちゃんと覚えていてくれたか。よかったよ」


 優しく頭を撫でて返すヤマトにエクリプスはとても懐いていた。

「うちの馬がこんなに懐くとは驚きです」

 店員は昨日会ったばかりのヤマトにこれほどなついている馬に驚いているようだった。馬というのは賢い生き物で、人をよく見ていると言われるが、その分信頼関係を築くのもそう簡単ではない。


「これから旅を共にする相手なので、認めてくれたよかったですよ」

 ずっと顔を寄せてくるエクリプスに微笑みつつ、ヤマトはこれがシステム的なものなのか、単純に好いてくれたのか考える。

「ブルル」

 しかし、自分にとてもなついてくれているエクリプスを見ると、そんなものはどうでも良いと思わされていた。


「さて、それじゃ早速旅に出るか。――頼むぞ相棒」

「ヒヒーン!」

 ヤマトの呼びかけに応えてエクリプスが一鳴きして、二人は共に歩いて旅に出ていく。

 二人の旅路に幸あらんことを――そんなことを店員は思いながら静かに頭を下げたのち、二人の背中を見送っていた。






「よいしょっと」

 街中で騎乗するわけにはいかないので、街を出て少しした所で立ち止まった。

 アイテム類はアイテムストレージに格納してあるため、ヤマトは装備以外は手ぶらに近い状態でエクリプスに騎乗する。


 現実のヤマトはもちろん馬に乗ったことなどなかったが、ゲームでの騎乗経験に加えて身体能力が上がっていることによって問題なく乗ることができた。


「ヒヒン?」

 乗り心地はどう? と言わんばかりにエクリプスが首だけでヤマトを振り返る。

「最高だよ、この乗りやすさはお前が気をつかってくれているんだろ? ありがとう」

 言葉を理解しているかどうかを気にせずにヤマトは礼を言って、エクリプスの首のあたりを撫でる。すると、エクリプスはくすぐったそうに目を細めていた。


 傍からみたら二人は長年の主従関係にあると思われてもおかしくないほど意思の疎通がとれていた。


 ヤマトが馬に乗ることに慣れていないため、初日はゆっくりとした速度で進んでいく。しばらく進んだところでヤマトは思い出したかのようにエクリプスへと声をかける。

「途中でモンスターが出たら俺が相手をするから、エクリプスは離れていてな」

「ブルル」

 気遣うようなヤマトの言葉を聞いてエクリプスは鼻を鳴らして返事をした。


「さて、それじゃ早速戦うとするか」

 そう話していた矢先にモンスターが現れたため、ヤマトは内心で噂をすればなんとやらだなと思いながらエクリプスから降りる。そうすると自然とエクリプスは言いつけ通りに少し離れた草むらに移動した。


「デビルラットが三体に、デビルフラワーが三体か。植物系は炎に弱いからありがたいな」

 悪魔の名を冠するモンスターだが、ウルフの時のことを思えば分かるとおり、さほど強いモンスターではなかった。


「レベル上げの足しになってもらうよ!」

 その言葉をきっかけにヤマトはフレイムソードを片手にモンスターへと向かう。

 腕輪によって敏捷性があがっており、以前よりも装備が重くなっているにもかかわらず、変わらない動きで走ることができる。


「いいね!」

 ヤマトが最初に狙ったのは植物系のモンスターであるデビルフラワー。その名のとおり大きな紫色の花のモンスターであり、しなる蔦が鞭のように襲いかかってくるがそれをひらりと避けながらヤマトは走る速度を緩めることなく距離をつめていく。


「――せいっ!」

 横に斬りはらったフレイムソードは炎を散らしつつデビルフラワーを両断し、モンスターは斬れたところから燃えていく。苦し気にもだえたデビルフラワーはあっという間に燃えて力尽きる。

「弱点をつけるとやっぱり楽だね」

 そう言いながら次のデビルフラワーに斬りつける。


 そちらもあっさりと両断されて、最初の一体と同じように斬られた場所から燃えていく。そうなることがわかっているヤマトは視線をデビルラットへと向けていた。


「ふふっ」

 ヤマトはデビルラットを見て思わず笑ってしまっていた。

 デビルラットは紫色がかった色合いの毛を持つウサギ型のモンスターだ。長くとがった耳の間にある子鬼のようにとがった角が特徴だ。


 ラットといえば通常であればネズミ型のモンスターなのが普通だが、エンピリアルオンラインの運営がラットの名称をウサギ型のモンスターにつけてしまい、修正されることなくそれが当たり前になっていた。

 その経緯をヤマトは雑誌のインタビューで読んだことがあるため、それを思い出して笑ってしまうこととなった。


 攻撃はこないものの、ヤマトがしっかりとにらみをきかせているため、デビルラットはうかつに動けずにいる。

「とりあえず魔法を使っておくか。《ウォーターボール》!」

 デビルフラワーに攻撃しつつ、ほぼ同時に魔法でデビルラットへと攻撃をする。


 剣で戦っているヤマトを見て、近接攻撃しかしないと思い込んでいたデビルラットは隙を奪われ水の玉の直撃を受けてしまうことになる。その間にもデビルフラワーを一体倒した。


「キュー!」

 ダメージを受けてデビルラットは可愛い鳴き声をあげるが、いくら可愛かろうとモンスターであることに変わりはないので、容赦なくヤマトは今度は残りのデビルラットを倒すために動き出す。


「――ていっ!」

 デビルラットもモンスターとしては格が低いため、あっさりとヤマトの剣の餌食になっていく。水の玉で倒した一体、剣で倒した一体、そして今残りの一体にも流れるように止めを刺す。


「……ふー、こんなものか。魔法があるおかげで、虚をつけるのは楽だな」

 ヤマトは刀身に傷がついていないか確認しながら武器をしまうとエクリプスのもとへと戻る。

「ヒヒーン!」

 戦闘を終えたヤマトのことをねぎらうように近づいてきたエクリプスは顔を寄せてくる。


「ははっ、ありがとう。大したことない相手だったから大丈夫だよ」

 怪我はない、疲れてもいないと二つの意味でヤマトは大丈夫とエクリプスを撫でながら伝えた。

「それじゃあ、再び旅の再開といこうか」

 ミニマップを確認して、近くにモンスターがいないことを確認すると、エクリプスに騎乗して二人は中央都市までの道を進んでいく。


お読みいただきありがとうございます。

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