第二十四話
宴は遅くまで続きそうだったが、ヤマトはユイナとの定期連絡があることを考えて先に宿に戻ることにした。何度も引き留められたが、何ごとかと様子を見に来たマスターによってヤマトは解放されることとなった。
「――ということがあってね」
宿のベッドに寝転びながらヤマトはその話を含めて、今日あった谷での戦いの話をしていた。
『わー、それは楽しい出会いをしたね! そうそう、私も面白い子に会ったよ! 年齢は八歳くらいって言ってたかなぁ』
ユイナの方も色々なクエストをこなしており、その中でギルドに依頼できない子どもの手助けをしていたとのことだった。ギルドに依頼するのは一定の責任が伴うため、年齢制限があるのだ。
二人はそれぞれの戦い、この世界に来て思ったこと感じたこと、面白かったこと、気になったことを話していく。
「そっちも色々あったんだね。……それでレベルはどれくらいになった? 俺は二十二レベルまであがったけど」
この世界で自分たちの実力を計る最も大事な指針であるレベル。今後動いていくも際して、互いの実力の把握は大事なことだった。
『えっとね、十七レベルかな。ごめんね、あんまりレベル上げに集中できなくて……』
先ほど話にあった子どもの手助けなど、冒険者ギルド以外の人助けを行っていた結果だろうとヤマトは推測する。むしろ心優しいユイナの行動に変わらないなと安心したくらいだった。
「いいんだよ。右も左もわからない、とまではいかない世界のようだから。ただ、関わる人が必ずしもいい人ばかりではないってことはちゃんと覚えていてね?」
人を信じやすいユイナのことを心配してヤマトはそう助言する。
『だよね……うん、わかってる! どうもすぐ信用しちゃうからなあ、気をつけないとだね。そうだ、明日からはレベル上げできると思うからそっちも頑張るよ!』
ユイナが本気でレベル上げを始めたらすぐに追いつかれそうだなとヤマトは心の中で思っていた。一度熱中するとのめりこむタイプの彼女のことをよく知っているからだ。
「俺のほうは二十を超えたからそろそろ動いていこうかと思ってるよ。ゲームと違う可能性を考えるともう少し上げたい気もするけどね」
そろそろ動く――この言葉はつまり、ユイナとの再会のために動くということを意味している。
『ん、早く会いたいね……』
それぞれがこの世界での戦い方を理解しており、効率を考えた動きもできる。しかし、そのアドバンテージがあったとしても精神的な負担までは軽減できておらず、こうやって通話するだけでなく、信頼できる相手に会いたいという気持ちは強かった。
「うん、そうだね……やっぱり明日から動くことにするよ。俺もユイナに会いたいからね」
「ヤマト……」
通話越しながら、二人はこの状況によってさらに互いの気持ちが強く繋がっているのを実感していた。
それから会ったら何をするか、どうやって移動すればいいかなど夜遅くまで話し合っていた。
翌朝、ヤマトはすっかり寝るのが遅くなってしまったため、眠気が強かったが、いつもの時間に目を覚ます。
「ふわあ……さて今日は色々と忙しいぞ」
大きく伸びをして体をほぐしながら部屋の窓から外を見る。今日から本格的に動くと決めていたヤマト――そのためにはまず旅に出る準備を整える必要があった。
そのためにヤマトが最初に向かったのは、昨日も行った防具屋だった。
「いらっしゃい……おや、あんたは確か昨日来た」
店主は一人で店をやっているため、来た客のことをよく覚えていた。
「昨日はあんまり買えませんでしたが、今日はバッチリです!」
ヤマトが昨日訪れた時はなけなしの金を握りしめてきていたが、今日は懐も潤っており、十分な買い物ができそうだった。
「そうかそうか、あの装備で谷に向かうと聞いていたから心配していたんだが……無事みたいでよかったよ」
この街の商売人は、冒険者たちのことをまるで自分の子どものように思っている節があり、この防具屋の店員も言葉だけでなくヤマトのことを心配していた。最初に来た時にヤマトの懐の心もとなさには思わず同情してしまったほどだ。
「自分でもあの防具で行くのは心配だったんですけどなんとかなっちゃいました。それで、少し遠出をするつもりなので今日はしっかりと装備を揃えたいんですが……」
あははと軽く笑いつつ、ヤマトは店の中を物色していく。
旅をする以上、ある程度揃えて行きたいところではあったが、実際に装備の重さを感じる今となっては重装備はあまり好ましくないと考えている。
「動きやすそうなのは……」
そうなるとどうしてもハーフプレートなどの胸だけを保護するものになってしまい、防御力の点で見劣りしてしまう。
「なあ、金があるならこれなんかどうだい?」
ヤマトに向かって店主が出してきたのは軽銀の鎧だった。
「これは……軽いですね」
手に取ってみるとその軽さがわかる。ヤマトはいろんな方向から見てみるが、軽いながらもしっかりとしたつくりになっていることが伝わる品だった。
「足のほうも同じ金属でできてる脛あてを装備して、敏捷性をあげる腕輪を装備するってのが俺のお勧めなんだが」
店主は提案してくるが決めるのはお前だ――と視線でヤマトへと尋ねる。
「なるほど……ちょっと装備してみてもいいですか?」
「もちろんだ、あそこが更衣室になっているからそこで着替えてくれ。腕輪だけはこっちに出てから装着してくれ」
店主の言葉に頷いたヤマトは更衣室に入ってカーテンを引くと、鎧と脛あてを装備していく。
「これはなかなかいいな」
装着してみて、改めて軽さ、そして頑丈さを感じていた。装備のサイズはゲーム時のように装着者に合わせて自動で補正されるため、きつさや緩さなどは感じなかった。
カーテンをあけて外に出ると少し離れた場所で店主が待っていた。
「おや、よさそうじゃないか」
「いいですね、これ。あとは腕輪もつけて、と」
効力は低いがそれでも敏捷値をあげる装備を身に着けると身体がいくぶんか軽くなったことを感じる。
「おぉ! これなら戦える……」
ヤマトはこれから向かう先に出てくるモンスターを思い出しながら、自然と拳を握りしめていた。
「どうするね?」
答えはもう決まっているだろ? そう目線に込めながらも店主が確認をとってくる。
「――もちろん購入します!」
良い装備との出会いは一期一会だと判断して即答するヤマトに店主も笑顔になっていた。
願わくば自分の装備が長く彼の旅の助けとなるように、そう願いながらも料金をまけずに定価を告げた。
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