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第二十二話


「お待たせしました」

 穏やかな笑みを浮かべたヤマトは買取を終えると、アイザックとフユのもとへと戻ってきた。

「お、おう、なんかすごい量を買い取ってもらってたな」

 アイザックは買取を遠目で見ていたため、ヤマトが提出していた素材の量に驚いていた。


「みなさんと別れたあとに結構狩れたんですよ。ハーピーの情報ももらってましたしね」

 あくまでアイザックたちに話を聞いていたからだとヤマトは手を横に振って謙遜する。

「あいつらと一人で戦って無事とは……やっぱりヤマトはすごいな」

 精悍な顔つきで目を細めたアイザックはすっかりヤマトを尊敬する存在として見ていた。


「いえいえ、まあここでする話でもないですし……ごはんでしたよね、行きましょうか」

 夜とはいえ、他にも冒険者がいるため、そちらを気にした風を装い、ヤマトは場所を移すことを提案した。

「あぁ、悪いな。ついつい……よし、フユいくぞ」

「うん」

 二人がギルドを出ていくのに続いてヤマトも一緒にギルドを出ていく。


 ヤマト自身も気づいていたが、ギルドでヤマトに視線を向けている冒険者が何人かいた。ヤマトのランクは未だ低いが、買取のやり取りを見てこれから絶対に伸びるであろう存在として注目されつつあった。


「――こっちだ。俺たちの行きつけの店で、いつ行っても個室をとってもらうよう頼んでおいたからゆっくり話もできるはずだ」

 先頭を歩くアイザックはヤマトが無事に戻ってくると信じて行きつけの店に近いうちに大事な客を連れてくると伝えており、それゆえに店側も個室を準備しておいてくれていたようだ。





 しばらく歩いたところで、その店に到着する。

 外観は落ち着いた雰囲気のレストランであり、中もその雰囲気に違わず統一されたインテリアと落ち着いた様子だった。カウンターらしきところでは静かに酒や食事を楽しんでいる客が見てとれた。


「マスターいるかい? 俺だけど」

 カウンターに近づいたアイザックが声をかけると、すぐにマスターと呼ばれた男性がやってきた。

「やあ、アイザック君……そちらが?」

 うっすらと大人の笑みを浮かべたマスターはことの経緯をアイザックより聞いており、ヤマトへ視線を向ける。


「あぁ、こいつがヤマト。俺たちの命の恩人さ」

 どこか誇らしげな様子でアイザックがヤマトを紹介する。

「ヤマトさんですね。アイザックたちを助けて頂いてありがとうございます。堅実にやるよう言っているんですが、時折危険なことをしようとするので僕も不安なんですよ」

 困ったような笑みを浮かべたマスターはヤマトに礼を言いつつ、握手を求めた。


「いやいや、俺は大したことはしてませんよ」

 差し出された以上、握手には応えたものの、実際にただ一体のモンスターを倒しただけであるとヤマトは考えており、特別なことをしたとは思っていなかった。アイザックからもマスターからも感謝され過ぎている気がして困ったような表情になる。


「彼らは僕の弟分みたいなものでね、小さい頃から良く遊んでいたんですよ。その彼らの命を救ってくれたのだから、ヤマトさんは僕にとっても大事なお客様ですよ」

 穏やかな口調の中にある温かいマスターの言葉にアイザックとフユはうっすら涙ぐんでいた。


「俺としては通りがかりだっただけですけど、その気持ちは受け取りたいと思います」

 彼らの気持ちを汲み取ったヤマトはこれ以上言うのも失礼だと思い、真剣な表情で返事を返した。


「それじゃあ、奥の個室はとってあるからみんなどうぞ。料理は腕によりをかけるから楽しみにしていてね」

 茶目っ気たっぷりにウインクしたマスターは案内をアイザックに任せて厨房へ戻っていった。





「それじゃ行こう。こっちだ」

 アイザックは慣れたもので、すたすたと目的の部屋へと移動していく。

「本当によく利用するんですね」

 その様子を見たヤマトが呟いた。


「はい。マスターは私たち四人よりもいくつか歳が大きいんですが、悪いことをしたら一緒に謝ってくれたり、お腹が空いたら料理を作ってくれたりとずっと面倒をみてくれていたんです。その流れで店を構えてからもちょくちょく来ているんですよ」

 ヤマトの後ろからついてきていたフユが関係性を説明していく。彼女のセミロングが柔らかく揺れた。


「なるほど、大人になってからも続いているのはとても良い関係ですね」

 彼らの話を聞いてヤマトはユイナのことを思い出し、とても柔らかい笑顔でフユに返事をする。

「っそ、そうですね! あ、そこの部屋です入りましょう!」

 大切な人を見るような笑みにボッと顔を赤くしたフユはとても動揺したらしく、慌てたように早口でまくしたてながら部屋へと入っていく。


「……どうしたんだろ?」

 一人取り残されたヤマトは急に態度が変わったことを不思議に思いながら、二人のあとに続いていく。自分がどんな表情をしていたのか自覚がなかったようだ。




「さ、入ってくれ」

「おぉ、すごい!」

 案内された部屋を見てヤマトは思わず声をだしてしまう。その部屋の内装は落ち着いたものではあったが、一つ一つがこだわって選ばれた調度品であることが一目でわかる。そういったことに詳しくないヤマトでも思わず見惚れてしまうようなものだった。


「へへ、わかるか? これは全部マスターが選んだもので職人の手による一点ものなんだぜ」

 自分の手柄ではないが、我がことのようにアイザックが胸を張る。フユも同じようにマスターのことを誇らしく思っているようだった。精悍な顔立ちの中に少年のような可愛さが見えた。


「えぇ、これはすごいですね。これだけのものに囲まれるとちょっと緊張します……」

 ヤマトの表情からは緊張は感じられなかったが、思わずそう口にしてしまうほどの調度品に囲まれていた。


「まあ、座ってくれ。今日の主賓はヤマトなんだからな、いつまでも立たせておくわけにもいかないだろ」

「アイザック、二人を呼んでくるね」

 先に中に入っていたフユはそう言って部屋の出入り口へと向かう。


「あぁ、頼む。だいぶ休めただろうし、栄養をとらせないとだからな。ゆっくりでいいが、できるだけ急いでな」

 矛盾するようなアイザックの指示にフユは苦笑しながら軽く手を振って部屋を出ていった。



「えっと、アーチーさんとデキシアさんもいらっしゃるんですか?」

 休んでいると聞いていたため、ヤマトは心配そうに問いかける。

「あぁ、ヤマトがいつ戻ってくるかわからなかったから休んでもらっていただけで、身体はわりと元気になったんだよ。飯を食ってないから、せっかくだから顔合わせと一緒にしようと思ってな」

 安心させるようなアイザックの説明を受けてヤマトはなるほどと頷いていた。


 そんな雑談をしていると数十分後に、フユが二人を連れてやってきた。



お読みいただきありがとうございます。

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