第二十一話
レベル上げに満足したヤマトは谷をあとにして街へと戻ることにする。
彼が谷を出る頃には日も傾いてきていた。
「ふう、結構遅くなったなあ……」
徒歩であるヤマトが街に到着する頃にはすっかり夜になっていた。
しかし、ヤマトは宿には戻らずに冒険者ギルドへと向かうことにする。こちらは夜間も営業をしており、もちろん買取も行ってくれることはわかっていた。
「こんばんはー」
夜の挨拶をしながらギルドの中に入るヤマト。すると、数人の視線が自分に向いていることを感じ取る。
「おぉ! 無事だったか!」
それは谷で助けた冒険者アイザックたち一行だった。ヤマトの来訪を待ち望んでいたアイザックは彼を手招きするように手を大きく振っていた。
「あなたたちは……確か谷で会ったアイザックさんですね」
彼らがいるあたりに近寄ったヤマトは一瞬誰だっけ? と思ったが、すぐに記憶を辿って思い出すことに成功する。谷での記憶は戦闘中心に埋められており、そちらの記憶が強かったためのことだった。
「よかった、覚えていてくれたか」
アイザックはヤマトに忘れられていないことにほっとしていた。
「忘れるわけがないじゃないですか。数時間前に会ったばかりですよ?」
茶目っ気をにじませて笑いながらそう言うヤマトだったが、内心では覚えていてよかったと安堵していた。
「礼をするって約束したものの、どこを拠点にしているのか、どこの宿に泊まっているのかもわからなかったからな。同じ冒険者ならここだろうと思って、俺とフユの二人で待っていたんだ。あとの二人は宿で休んでもらってる」
アイザックはぼりぼりと頭を掻きながらそう言って苦笑いしていた。魔力を使い果たしてふらふらになっていた魔法使いと意識を失っていた弓使い。その二人が宿に残ったのは順当なことだろうとヤマトは考える。
「それじゃあ、弓使いの方も無事だったんですね。よかった……」
ヤマトが彼らの安否を気遣ったことで二人の中のヤマトの好感度は更に上がっていた。
「クエストの報告とか買取依頼とかあるんだろ? 待っているから行ってきてくれ。それが終わったら、約束どおり食事をおごらせてくれないか」
律儀にヤマトを待っていたアイザックとフユ。それを断ろうとはヤマトも思わなかった。
「わかりました。それじゃあ、行ってきますね」
二つ返事で頷いたヤマトは今回クエストを受注していないため、まずはクエストボードの前に移動し、既に手に入れているアイテムの納品クエストがないかを確認する。
「これは違う、これも……違うな。お、これならいけるな」
手に取ったのはハーピーの羽根を手に入れて欲しいというものだった。ハーピーの羽根は矢羽として重宝されるものだったが、この周辺ではハーピーがいないため、なかなか納品されることはない。
「ちょうどよかった」
ヤマトは谷での戦いによって羽根を大量に手に入れていたため納品数に十分足りていた。そのため用紙を剥がしてクエスト受注カウンターへと向かう。
「いらっしゃいませ! 今日は遅くまでお疲れ様です」
そう声をかけてくれたのは受付職員のレスカだった。ほっとしたような笑顔を浮かべているのは、ヤマトが冒険に出ていたのを服の汚れなどから察したからのようだった。
「ありがとうございます。早速なんですが、このクエストを受けたいんですが……」
笑顔でヤマトが提示したクエスト用紙。それを見たレスカは今回も難しい表情になる。
「うーん、これですかあ。受注されるのは自由なのですけど、このハーピーはこの近辺では見かけないモンスターでして依頼の品を手に入れるのは大変かもしれませんよ……?」
苦笑交じりのレスカはヤマトのことを冒険者として気に入っているため、苦言とわかっていながらも助言をすることをためらわなかった。
「えっと、今回もアイテムは既に手に入れているんでクエストだけ受けたいんですけど……」
今回も、つまりヤマトはこの数日の間にハーピーの羽根を手に入れたということであり、それをするには街から離れていたことを示すため、ヤマトの発言にレスカは言葉を失ってしまう。
「あー、恐らく羽根をどこで手に入れてきたかという部分が気になっていると思うんですけど」
ぽりぽりと頬をかきながらヤマトがそこまで言うと、レスカはうんうんと何度も縦に首を振っていた。
「それにはちょっと込み入った事情があるんですが……今日のところは勘弁してもらえますか? 連れを待たせているので……」
説明したい気持ちをにじませてヤマトは含みを持たせつつ、視線をアイザックたちに向けることでレスカに事情を理解してもらう。
「なるほど、わかりました。それではこちら受注処理をしますね。カードお預かりします!」
少し不満そうにしつつもレスカはあとでちゃんと説明して下さいという目でヤマトを見てから、すぐに本来の業務に取り掛かった。
「ありがとうございます。それじゃ、買取カウンターに行きますね」
カードを返却してもらうとヤマトはすぐにいつもの買取カウンターへと移動する。
そこには例のごとくいつもの男性職員が待機していた。慣れた人だということでヤマトは少し安堵していた。
「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件でしょうか?」
彼はヤマトがやってきたことに気づくと、笑顔で迎え入れる。ヤマトがくるといつも上質な素材を持ち込んでくれるため、期待の眼差しが向けられた。
「どうもです、今日はクエストの報告とそのあと少し買取してもらえればと思ってます」
彼から向けられる視線をむず痒くなりながらヤマトはカードと一緒にハーピーの羽根をカウンターの上に並べた。
「おぉ! これはハーピーの羽根ですね。しかも品質も良いですねぇ、本当にヤマトさんが持ってこられるものは良質なものばかりで助かります。もちろんクエストも完了ですよ!」
ハーピーの羽根を一つ一つ丁寧に確認したのち、男性職員はやや興奮気味にそう答えた。
その後は他のモンスターの素材の買取ができるかヤマトが確認してもらうと、すぐに了承した男性職員。次々に取り出される素材たちの品質の良さに再び男性職員は驚き、その結果ヤマトの懐は潤うこととなった。
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