第二十話
「結構色々なアイテムが手に入ったな」
一息ついたヤマトはアイテム欄を確認する。モンスターとの戦闘中に、他のモンスターがさらに加わってと、最終的にかなりの数を倒すことになったヤマトのアイテム欄には色々な素材が載っていた。
「でも、岩場に続いてここにも変化があるとなると、やっぱりゲームの知識のままじゃいられないみたいだな。それに……街に住んでいる人たちの名前も聞き覚えがない名前ばかりだ」
落ち着いたところで、改めて街で出会った人たちのことを思い出す。ゲーム時代には名前が上に表示されていて、何度か通ううちに覚えたものもあった。だがその時の知識と違っていたのだ。
「時代が違うのか、世界が違うのか……なんにしても情報が足らないよなぁ」
情報を集めるためにも、まずはレベルが必要だと考えてヤマトは次の敵を探しに向かって移動を始める。
「この谷に他にいるのは、素早い動きが特徴のレッサーリザードくらいか」
それはゲーム時代の知識だったが、それしか情報がないためとりあえずそれを頼りに進んでいく。これまでも元々生息していたモンスターがいないということはなかったため、恐らくいるだろうと考えていた。
「いた! ……けど、やっぱり他のモンスターもいるみたいだな」
レッサーリザードの群れの中央には、一体だけ皮膚の色が違うレッサーリザードデグズというモンスターがいた。
レッサーリザードとは巨大なトカゲのようなモンスターで、素早い動きとしなるように動く舌を鞭のようにした攻撃が強力だった。
「デグズは……」
対してデグズの特徴は、通常のものに加えて強力な酸による攻撃を得意としている。毒々しい色合いがその特徴だ。レッサーリザードよりも数段強いと知られている。
「よっし、やるしかないかー」
レベルを上げるためには強力なモンスターを倒すのがいいことはわかっている。そして、先ほどの熊やハーピーとの戦いで自らの力が強くなっているのも感じていた。
ユイナに会うためにも、さらに強くなるためには視線の先にいるモンスターたちも全て倒さなければならない。
「まずは……《アイスボール》!」
ヤマトは戦いを楽にするために、モンスターを少しでも多く巻き込むように巨大な氷の玉を生み出してモンスターの群れへと飛ばした。それも、三つ連続で。
「低温に弱いトカゲから処理させてもらう」
通常のレッサーリザードは冷気などの低温に弱く、ヤマトの魔法はそれを狙ったものだった。
「ギャオ……」
不意打ちで魔法を食らったレッサーリザードは声をあげようとしたそばから凍りついていく。
「通常のトカゲだけならこれで終わりなんだけどな……」
魔法を放ち終えたヤマトは走りながら、倒れていくレッサーリザードを見て呟いていた。
「――本命は、お前だ!」
唯一残ったデグズに向かって行くヤマト、その速度は最大にまで上がっている。
「グギャアアアア!」
部下として従えていたものたちを倒されたためか、それとも自分が狙われていることへの怒りか、レッサーリザードデグズは酸を口から垂らしながら怒り狂っている。
「怒っても無駄だ、《アクセル》!」
先ほどのモンスターとの戦いでレベル上がったヤマトが覚えたスキル『アクセル』。自分の中で車のようにアクセルを踏み、その速度を上げるというもので、通常は移動の時に速く走るために使うものだったが、ヤマトは相手に向かう速度を上げるために利用していた。
「グギャ!?」
ヤマトの走る速度がけた違いに上がり自分との距離を想像していた以上の速さで詰められたことで、レッサーリザードデグズはとまどいを見せていた。
「隙、でかいよ」
ようやく我に返ったレッサーリザードデグズは口を開いて、毒のブレスを吐こうとしていたが、ためていた毒を口から放出する前にヤマトによって胴を斬りつけられてしまう。
「まだ!」
それだけで終わらないのがヤマトである。そこから全力で踏ん張り、身体をひねって振り返ると次の攻撃を繰り出す。
「《スラッシュ》! 《ダブルスラッシュ》!」
相手に攻撃をさせる隙を与えないように持てるスキルを次々と撃ち込んでいく。
最初のスラッシュで再びレッサーリザードデグズの身体に斬りつけ、そのモーションが終わる瞬間に合わせて次のダブルスラッシュを使うことで三連撃の強力な攻撃を放つことに成功する。
「ギャアアアアアッ!」
次々に襲い来るヤマトの攻撃に耐えられず、レッサーリザードデグズは苦しげに大きな声をあげるが、それでも彼の攻撃は止まらなかった。
「《フレイム……スラッシュ》!」
改めてフレイムソードの刀身に魔力を流すことで、一気に噴き出した炎を纏った炎の剣と化した状態でのスラッシュ。今までのスラッシュより強く、更に炎による追加攻撃を叩きこむことが可能になる。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」
これまでで一番の叫び声をあげるレッサーリザードデグズは、それが断末魔の声となり、体力が尽きたのかばたりと倒れてしまった。
「ふー、フレイムソードのおかげでなんとかなったな」
他の者が見たらヤマトの実力だと声高に言うだろうが、ヤマト自身は自分の力量のおかげではなく、あくまで装備のおかげであると判断していた。
実際のところ、装備はこのレベルで装備できる中では最強と言っても過言ではないものが手に入っていた。しかし、技を使うタイミングや敵に何もさせない攻撃の組み合わせなどはヤマトの実力であることは疑わざる事実だった。
しかし、その常におごらない心がヤマトを『不敗』の二つ名で呼ばせた理由の一つだった。
「さて、もう少し戦っていくか」
消えゆくレッサーリザードデグズを確認したのち、表示されるミニマップを見ながら、モンスターがいそうな場所へと移動していく。
それから時間にして三時間ほどヤマトはこの谷で狩りをしていくが、レッサーリザードデグズは最初の一体の他に二体ほど確認できていた。
「まあ、この辺りで戦える中だと倒せなくはないレベルだからなあ……報告しておくか悩むところだなあ」
一通りモンスターを殲滅したヤマトは一息ついていた。
明らかに強力なフレイムデビルウルフに関しては報告したが、ハーピーやレッサーリザードデグズは驚くほど強いモンスターというわけではなかったため、少し悩んでいたようだ。
この谷の戦いでヤマトのレベルは二十二まで上がっていた。
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