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第十九話


「どうですか?」

 冒険者たちに近づいたヤマトは様子を見ている男性剣士にそっと声をかける。

 彼は短く刈り込んだ赤い髪をしており、最も精悍な顔つきをしているため、恐らくは彼らのリーダーであるだろうと予想できた。


「おかげさまでなんとかなりそうだ。な?」

 振り返った彼は感謝の気持ちを込めてヤマトに答えつつ、座り込む回復職の女性に不器用ながらに気遣いつつ問いかける。


 問いかけられた彼女はといえば、いまだ先ほどの戦闘の緊張を引きずって額に汗を浮かべていた。だが戦闘状態から解放されたことで回復に専念でき、座ったままであったが彼の問いかけに返事をする余裕もできていた。


「……うん、これなら大丈夫。おかげさまで仲間を助けることができそうです、ありがとうございます」

 回復職の彼女は疲労を見せながらも、ほっとしたような笑顔でヤマトに礼を言った。


「いえいえ、たまたま通りがかっただけですからお気になさらず……それよりも、一体何があったんですか? 四人でいらっしゃる様子を見るとグレイナーゲルベア一体を相手にしても対処できそうな気がしますが……」

 ヤマトがこっそり『調べる』で見た彼らの能力は決して低いものではなく、このあたりのモンスター一体程度であれば余裕で対処できるだけの力を持っていた。


「あぁ、それなんだが予想外の事態に遭遇したんだ……」

 眉間に皺をよせた剣士の男性は苦々しい表情でそう語る。

「――それについては私が。私は魔法使いのデキシアと言います。今回は助けてくれてありがとうございます……」

 魔力切れで先ほどまでぐったりとしていた黒髪のロングヘアーの魔法使いの女性がなんとか立ち上がり、ヤマトたちのもとへとやってきた。ふらついてはいるが、動けるほどには回復したようだ。


「俺の名前はヤマトです。……それで、何があったんですか?」

 彼らを気遣いつつ、ヤマトは先ほどの同じ質問を繰り返した。


「私たちはもっと先でグレイナーゲルベア二体と戦っていたんです。そうしたら、そこに上空から何体ものハーピーがやってきて……隙をつかれたため、うちの弓使い――アーチーと言うんですが、彼が大きなダメージを負うことになって……」

 きゅっと胸のあたりを掴むように悲しげに語る魔法使いの女性。想定外の上空からの攻撃によって陣形が崩れ、一気にやられてしまったということだった。


 彼女が視線を向けた先にいたアーチーは深い傷がまだ残っているせいかぐったりとしており、いまだ回復職の女性から受けているようだ。


「上と下からの同時攻撃にあってはきついですね……予定していたものならまだしも、想定外とあっては」

 このあたりに生息するモンスターではないハーピーが現れたことは彼らの動揺を誘い、本来の実力を出させないことに成功していたようだった。


「あぁ、本来ならリーダーの俺が落ち着いて指示を出さないとだったんだが……あぁ、俺も名乗らないとな、俺の名前はアイザックだ。改めて、ありがとう助かった」

 アイザックは悔しそうな表情になるが、すぐに気持ちを切り替え、ヤマトへ深々と頭を下げて礼を言った。


「いえいえ、結果として全員無事だったんですから十分だと思います。この経験を次に活かすのが大事だと思いますよ」

 そんなに深い礼をされて恐縮したヤマトは手を振って苦笑いする。彼もまたエンピリアルオンラインをプレイしたばかりの頃に色々な失敗をしていたことを思い出していたのだ。


「そう言ってくれると幾分か気持ちも楽になる……」

 大きく息をついたアイザックは肩を落として力が抜けていているようだった。

「ふぅ……ようやく落ち着いたみたいです」

 回復職の彼女が立ち上がれるようになったようで、汗ばんだ髪をかき上げながらヤマトたちのもとへとやってきた。


「私の名前はフユです。ありがとうございました」

 額の汗も持っていたハンカチで拭ったらしく、疲れを見せてはいたが彼女も笑顔になっていた。


「いえいえ、よかったです。仲間が亡くなるのは辛いですからね」

 親身になってくれるヤマトの言葉に三人は安堵した様子で笑っていた。





「さて、これからですがみなさんはどうされますか? 俺は街からこの谷へと来ましたが特に変わった敵はいませんでした。今なら恐らくモンスターと遭遇することなく戻れると思います」

 彼らと遭遇するまでの道の安全性を説き、ヤマトは街に戻ることを促した。傷を負った仲間を連れたまま旅をするのは危険だろうという心配もあった。


「そう……だな。これ以上ここにいても被害が増えるだけだから戻ろう。アーチーは俺が背負うから、フユは疲れているところ悪いが、デキシアに肩を貸してやってくれ」

 少し考え込んだアイザックは今度は判断を間違えたくはなかった。だから、全員が生き残れる一番の方法を選択する。


「それがいいと思います」

 その決断を後押しするようにヤマトは彼の選択が正しいと頷いた。

「……な、なあ、厚かましいかもしれないがもしよかったら一緒に来てくれないか? ヤマトがいてくれれば、俺たちも安心なんだが……」

 アイザックはヤマトの戦いを見ており、彼の実力があれば安全に戻ることができると考えていたがゆえの提案だった。先ほど知り合ったばかりの関係で無理な申し出とはわかっているため、アイザックは遠慮がちに頼み込んだ。


「うーん……」

 彼らの気持ちを察しつつもヤマトは考えこむ。

「――申し訳ありません。俺は目的があってここに来たので、何もせずに戻ることはできません。あなたたちについて行きたい気持ちがないわけではないのですが、少しでも早く目的を果たしたいのです。力になれずすいませんが、俺がいなくてもゆっくりと戻れると思います」


 一見非情にも思えたが、考えた結果にヤマトが下した結論はこれだった。彼は少しでも早くレベル上げと金策をして妻であるユイナと合流したかったのだ。それにミニマップで再確認して街への道が安全であることが分かっていたのもあった。


 それを知らないアイザックは仲間を守るためにとなおも食い下がろうとしたが、その肩に手を置いたフユが首を横に振ったのを見て諦めることにする。デキシアも弱く笑っており、フユと同じ考えのようだった。


「そうか……無理を言ってすまなかった。この先に行くなら気をつけて行ってくれ。……だが次に街で会ったら是非お礼をさせてくれないか!」

「え、お礼だなんて……」

 最後まで面倒を見たわけでもないため、アイザックの申し出を断ろうとするヤマトだったが、アイザックが制止するように右手を前に出したことで言葉を飲み込んだ。


「俺たちの気が済まない――なんてのはこっちの勝手な理由だがそれでも礼はさせてくれ。そして、礼をされると約束してほしい。それほどまでに全員生きていられたきっかけをくれたお前に俺たちは感謝しているんだ」

 ヤマトが向かおうとしているここから先には例のハーピーなどのモンスターがいるため、グレイナーゲルベアをあっさりと倒したヤマトとはいえ、危険だと考えたアイザックは約束で縛ろうとした。

 そう、彼の安全を……。


「わかりました。それじゃ街に戻ったら美味しいご飯をごちそうして下さい」

「おう!」

 互いに笑顔で拳をこつんとぶつけ合って約束をすると、ヤマトは更に奥へと、アイザックたちは街へと戻って道を分かれた。





「――さて、モンスターと戦っていくとしますか!」

 前を向いて歩き出したヤマトは金策とレベル上げ、その二つを目的に進み、モンスターを見つけると戦闘に入った。


お読みいただきありがとうございます。

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