第十五話
ヤマトが街に戻ると言うのでレスタは同行していた。話してみると彼はとても気さくな性格で、ヤマトより数ランク上のBランク冒険者とのことだった。
「レスタさん、改めてありがとうございました。さすがにあんなモンスターに出くわすと思っていなかったから死を覚悟しましたよ」
歩きながらヤマトはレスタにぺこりと頭を下げて礼を言う。
「いやいや、たまたま逃げてくれたからよかったけど俺もあんなやつと正面切って戦っていたら勝てる気がしないさ」
レスタは感謝されて困ったように笑う。彼の言葉は決して謙遜からではなく、心からの言葉だった。
「二対一ということで、不利だと思ってくれたんでしょうね。なんにしろ助かりましたよ」
どんな理由で相手が逃げたにせよ、それはレスタが現れてくれたことに起因するため、ヤマトは深く感謝していた。妻であるユイナに会えないまま死ぬのだけは嫌だったからだ。
「ふーん……うちの妹が気にかけるだけのことはあるな。わざわざ俺を呼び出してまで頼むからどんなやつかと思ったけど、あのモンスターと戦って生き延びたことを考えると将来有望だな!」
顎のあたりに手をやりながら考え込んだあとレスタはヤマトのことを褒めると同時に妹のことも持ち上げていた。
「はははっ、言い過ぎですって。……それよりも、あんなモンスターがここにいるのはよくあることなんですか?」
レスタの笑顔につられるように笑ったヤマトは、真剣な表情になるとフレイムデビルウルフについて質問した。ギルド職員の兄ならばこの辺りの事情に詳しいのではないかと思ったからだ。
「……うーん、この岩場には何度か来たことあるけどあれほどのモンスターがきたのは見たことはないし、聞いたこともないなあ」
思い出しつつのレスタの話を聞いて、ヤマトはやはりと心の中で頷く。
「確認ですけど、この岩場以外で同じような話を聞いたことはありますか? 近くの森とか草原とか洞窟とか」
情報は少しでも多いほうがいいとヤマトは重ねてレスタに質問をしていく。
「そんな話も特に聞いたことはないなあ。そんなことが頻繁に起こっていたら、冒険者稼業なんてやってられないだろ」
確かにレスタの言うとおりだったが、ヤマトはこの岩場だけのできごとで終わらない可能性も考えていた。
「……さっきのフレイムデビルウルフに関しての報告はどうしますか?」
慎重さをにじませた声音でヤマトはランクが上であるレスタの意見から確認する。
「うーん、たまたま一匹紛れてあのまま遠くに逃げていったとかならいいんだが……一応ギルドに話をあげておかないとまずいだろうな」
ヤマトもレスタの結論に同意して頷いていた。
「レスカさんと兄妹ならレスタさんの方から説明してもらったほうがいいかもしれないですね」
ランクの低い自分が話をしても信じてもらえない可能性を考慮して苦笑交じりにそう提案したが、レスタは大げさと言わんばかりのリアクションで否定した。
「いやいやいやいや、それはないだろ。実際に戦ったのはヤマトなんだから、あいつの力について話せるのはヤマトだけだ。存在の確認については俺も話すから、一緒に来てくれ」
面倒ごとに巻き込まれないように話を持っていこうとしたが、失敗したためヤマトは観念することにする。
「……ふう、わかりました。それじゃ一緒にギルドに向かいましょう」
「おう!」
こうして話している間に無事に街に辿りついた二人は冒険者ギルドへと向かうことにする。
冒険者ギルド ギルドマスタールーム
「……ふーむ、そんなことがなあ。その、本当にそれはフレイムデビルウルフだったのか?」
レスカの案内で部屋へ通されたヤマトとレスタはソファに座り、事情を一通り説明した。
彼らの向かい側のソファに座るギルドマスターは難しい顔で腕を組み、ヤマトたちの報告を聞いている。ギルドマスターの彼は常に眉間に皺のある厳しい表情のヒューマン族の男性だ。
「あぁ、それに関しては俺も一緒に確認しているからな」
ここに来る前の話のとおり、レスタはモンスターの存在について太鼓判を押してくれた。
「レスタはこう言っているが、実際に戦ったのはお前……――ヤマトといったな。お前が狙われたのか?」
それも説明済のことだったが、ことがことだけになかなか信じてもらえないようだった。冒険者は時に油断から招いた死への恐怖でより強いモンスターに襲われたと勘違いするケースもあるからだ。
「俺も別に騒がせたいつもりはありません。ただ、あれだけ強力なモンスターがいたという情報は共有するべきだと思ったから報告に来ただけです。……信じてもらえないのであれば仕方がありませんが、クエストの報告があるので下に行ってもいいですか?」
ヤマトは懇切丁寧に説明しているというのに、終始疑いの目で見られていると感じ、これ以上話していても平行線だろうというもどかしさからさっさと話を切り上げようとする。
しかし、この言葉に反応したのはギルドマスターでもレスタでもなく、ギルドマスターに同行して話を聞いていたレスカだった。
「えっ!? あのクエスト達成できたんですか!?」
フレイムデビルウルフに遭遇したヤマトだったが、本来彼が受けていたクエストはグレイロックの核であるハートロックをとってくるというものだった。
「はい、それなんでクエストの報告をしたいんですが……」
「……すごいですっ!」
レスカはヤマトがあのクエストを達成できないと思ったため、兄に様子を見てもらうよう依頼していた。しかし、話を聞いてみるとそちらは完遂しているとのことで両手を合わせて称賛していた。
「――うん? 彼は何かのクエストに行ったのか?」
「はい! ヤマトさんはグレイロックからハートロックをとってくるクエストのために岩場に向かったんですよ!」
多くの冒険者が避けていたクエストを達成したと聞いて、これまでずっと訝しげだったギルドマスターもヤマトに興味を示した。
「ほう、ならハートロックを見せてもらおうか。お前が本当にとってきたのであれば、ここでクエストの報告を完了しようじゃないか」
下にあるクエストを処理する魔道具はギルドマスタールームにもおいてあるため、そう提案をする。ヤマトが実力のある人間かはハートロックを見ればわかると判断したのだろう。
「……わかりました。これです」
試されていると感じながらも、ヤマトはカバンからハートロックをとりだして中央のテーブルの上にごとりと置いた。宝石のような美しさと輝きを放つそれはテーブルの上で圧倒的な存在感を放っている。
「――こ、これは、本当にハートロックじゃないか!」
それを見た瞬間、ギルドマスターはソファから前のめりになるくらい声をあげて驚く。
なぜギルドマスターの彼がここまで驚いたのか。
「傷一つないなんて……とても綺麗だ……しかもこんなにたくさん……」
傷などがあることや大きさの違いから、念のためとヤマトは取ってきたハートロックのうちから綺麗な物を選んで五つ並べていた。
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