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①死んで、まあ転移かな?

「また、駄目だったか――」

 就職活動を始めてからおよそ二ヶ月がたった。しかし、俺、武藤和也の名に御社から採用の印を付されることは一度としてなかった。大学が駄目なのか、容姿が駄目なのか、アピールの仕方がまずいのか。採用にこぎつけない理由を探せばきりがない。

 たしかに俺はもう二十二歳になったというのに自立心はないし、気弱だしでいかにもオタクな格好をしている。こんなやつ、やっぱ必要とされてねえんかな。未だ童貞だしなあ。

 とまあ、色々と駄目駄目な俺だが、唯一誰にも負けない自信のある分野が存在する。数学だ。俺は数学だけは出来る。幼少期、地元では数の神童で名が通っていたくらいだ。その得意分野を生かして大学は数学科に決めた。大学生活はサークルなし、バイトつまらない、彼女もいないで真っ黒けっけであったが、唯一授業中の数字と触れあっている時間だけは幸福感に満たされていた。数字は俺に語りかけ、俺は数字に語り返した。俺の大学生活上のコミュニケーションはそれで成り立っていた。

 だがしかし、御社はそんな俺を必要とはしなかった。どうにも今の時代、求められているのは人とのコミュニケーション能力の高さ、通称コミュ力なのだそうだ。数字といくら上手に会話できても人との付き合いが下手っぴでは使い物にならないのだそうだ。

 そんなこんなで現在俺は約五十社からお祈りを食らい絶望のどん底に落とされていたわけだ。

「もう生きてる価値ねえよ、はあ。今度もし生まれ変われるなら、もっと俺の生き易い世界に生まれたい。うん、たとえば数字への強さだけで優劣が決まるような……」

 妄想に逃げる俺。前を見ていなかった。いとも自然に信号を無視。突っ込んでくるトラックに対処する術はなかった。









「カズヤ君は良いよね。実力試験余裕で」

「別にロン、お前も心配する必要なんかねえだろ。それに監獄送りされるのなんて成績下位のほんの数パーセントだけだろ。びびる必要なんかねえって」

 明日は鑑定士実力試験だ。鑑定士実力試験ってのは毎年行われる国家試験。鑑定士としての実力を測るというそのままの意味だが、ここでの成績があまりに悪い人は監獄送りにされる。無期懲役。言い訳は通用しない。要はこの世界、鑑定士としての実力がめちゃくちゃ重要なのだ。

「男だけ毎年こんな試験あるなんて。理不尽だよ」

 隣に座るロンが言った。浜辺に潮気を含んだ風が吹く。ロンの金髪がなびく。

 ロンは俺の友達だ。男にしてはかわいらしい顔立ちをしている。しかし、俺が身長170.2234センチなのに対しこいつは170.8856センチある。これは気に食わない点だ。

「そうか? 男は鑑定さえできれば良い訳だし俺的には女のほうが可哀想だと思うがな」

 この世で男に与えられた役割はただ一つ。国の定める基準に従った鑑定評価を行うこと。そしてその鑑定評価の対象となるのが女性である。

「まあ言われてみればそうか。そもそも獣化できるのが女の人だけだしね」

 対して女に与えられた役割は獣化して主人たる男を守ることである。獣化とはその姿を変化させ、人間では到底生み出すことのできないスピードやパワーを備えることを言う。すなわち、男は女の鑑定評価を行い、その対象である女の戦闘力を中心とした価値査定を行うというわけだ。

「うん、やっぱり男に生まれて良かったよ。戦って傷を負うリスクもないし」

「当たり前だろ。てか、労働者側が雇い主より良いなんてことはありえねえよ」

 男と女の関係は言ってしまえば使役するものとされるものという関係だ。事実、男は女を鑑定評価を行って試算した価値を参考に競売にかけ、キャピタル・ゲインを狙うといったことも合法化されている。

「でも、どうしてこんなに男女で役割が明確に分かれてるんだろう?」

「そりゃ、どっかの偉い人にとっても、もしくは社会にとっても都合が良いからじゃねえの?」

「確かに獣化できるのが女の人だけだからシステムとしてこうならざるを得ないのは分からなくもない。でも、獣化という力をもっているのは明らかに女の人側で、それを行使すれば今の状況を逆転することなんて簡単なはずなのに、どうして現状の男性優位社会に甘んじてるんだろう?」

「また、始まったか。ロンは考えすぎだと思うぞ」

 ロンは頭がいい。たくさん本を読む。だから話してて面白い。

 しかし、時々意味不明なことを言う。書物に埋もれたせいで思考が若干飛んでるんじゃないか。

「いや、そもそも僕たちが鑑定評価できるという立場を与えられてるのは何でなんだ?」

「そりゃあ、男の絶対数が少ないからだろ。女ってこの世に男の何倍もいるらしいぜ」

「そうかもしれないけど、それでも僕たちの価値観って普通なのかな?」

「価値観ってなんだそりゃ……っ!?」

 痛てええ!!!

 頭に激痛が走った。いきなり。わけわかんねえ。

「だ、だいじょうぶ!?」

 ロンが驚いて声をかけてくる。

「あ、ああ。大丈夫だ。ちきしょう、ちょいちょい起こるこの頭痛なんとかなんねえのかな」

「病院に行った方がいいんじゃない? 明日は大事な実力試験だし」

「なに、いつものことだ。わざわざ病院行くほどのもんでもねえよ。それに実力試験ごとき目をつぶってても突破できる」

「ははは。その余裕っぷり、さすがは唯一の鑑定士マスター号修得者だね」

 ロンの言うとおり、俺はこの世でもっとも鑑定士としての能力が高いとされるマスター号修得者だ。俺の実力をもってすれば実力試験程度なんてことはない。

 しかし、先の頭痛。ロンと話しているときにちょくちょく発作的に起こる。脳内に何か別の物質が無理やりねじ込まれるような感覚。記憶、なのか?

「とりあえず明日はがんばろう。それに今年の優勝者には国王様から贈呈品が贈られるらしいよ」

「贈呈品?」

 初耳だった。しかし、国王様からのプレゼントとなれば相当価値あるものに違いない。手に入れよう。俺は心を決めた。


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