命賭けのラジオ体操
一編
●ラジオ体操●
「ラジオ体操はじめーっ」
緊張感に満ち溢れたそれが、始まった。
最も、その行為自体には危険性は無い。
危険があるとすれば、その場所にあるのだろう。
崖っぷちである。比喩でも何でもなく、私は今、崖っぷちに立っている。
「トゥントゥトゥットゥントゥトゥトゥ
トゥントゥトゥットゥントゥトゥトゥ
トゥトゥトゥトゥトゥトゥトゥトゥトゥトゥトゥトゥン トゥン♪」
「深呼吸。一、二、三、四。二、二、三、四」
深呼吸が始まった。この段階でも、まだ危険性は無い。
「腰を前に曲げるポーズ〜」
これである。このムリヤリ下を向かせる行為、崖っぷちでやれば、腰を曲げた先の視線に海が見えて、それはそれは恐ろしいのだ。バランスを崩せば一発で海の藻屑となってしまうだろう。
ざっぱぁあああああん
びゅぉおおおおおおっ
うわーぉ! 風が半端じゃない。なんて半端じゃない風なんだ。前かがみのカラダが揺れる。気を抜けば即死だろう。それほどの脅威。しかし私は踏ん張った。こんなところで死んでたまるか。死んでたまるか。
その意志が通じたのか、それとも只その時が過ぎたからなのか、次の段階へと移る体操のお兄さんの声。
「腕を広げて大きくジャンプ〜」
残念だ。そう思いながら、私はジャンプした。
案の定、風は吹いた。
びゅぉおおおおおおっ
風に乗って、私は空を飛んだ。
「足を開いて、閉じて、開いて、閉じて〜」
空中体操、始めっ。