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動かない者

一編

●立ち尽くす●


ただただ呆然と

すべてを忘れて立ち尽くす

それはなにか

なにを忘れているのか

歩き方さえも忘れているのか

だから立ち尽くすのか


この者

常に顔色が悪い

胴体 横幅の大きさはなかなかだ

しかし それ以上に驚くはその身長

三メートルは(ゆう)に超えている

さらに それ以上に驚くはその腕

尋常ではないほどに細く長い

しかし 千切れそうな雰囲気は

微塵も見せなかった

その上 おそらくその者と同種の者

それらと常に肩を組み合っているのだ

それも 容易くは切れぬだろう

そして それらすべてが共通して

地面に根を張り

一ミリたりとも動かぬのだ


その日 雨が降った

溶けたばかりの氷のような雨

当たり続ければ

その身が砕けてしまいそうな

鋭く 冷たい そんな雨が

この者の立派な体躯に降り注ぎ

強い轟音が鳴り響く

それでもなお

この者はそこを動かなかった


時に蹴られ

時に頭上に巣を作られ

時に捨て犬を見守る

この者自身に変化は無いが

この者の周りは よく変わった

しかし この者自身に変化は無いのだ


カァカァと カラスは鳴いた

そして あの者の腕に止まる

細く長い あの者の腕に

カラスが止まった

その一瞬だけ あの者の腕が揺らいだ

カァカァと カラスは鳴いた


あの者が事故に遭った

バイクが彼に突っ込んできたのだ

しかし あの者は無傷だった

むしろ 挑戦者のバイクの方が重傷に見える

あの者の立派な体躯のせいだろう

やがて 大きな車がそれを吊り上げ

どこか遠くへ消え失せた


その日からだろうか

あの者の肌の一部が

赤黒く変色したのは


あの者自身が変わった 唯一の時

しかし 変わらずそこから動かず

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