がんにょむ
●がんにょむ●
がんにょむ。
ガムの本当の名前である。
そう言って、グレープの絵が描かれている十円ガムは、お茶を飲み干した。
「あっつつつ」
ああっ。
ガムに描かれたグレープの色が、マスカットみたいになった。
私てきにはオールオッケーだが。
「でも何でガムって呼ばれるようになったと思う?」
やけに饒舌で聞いてくるガム。いや、がんにょむ。
私は省略したのでは? と思ったが
敢えて何も言わなかった。
クビを振った。ふるんふるん。
違っていたらものすごく嫌な気持ちになるだろう、このガム、いや、がんにょむは。
そう思って言わなかった。
「省略されたからだよ」
私の気遣いは僅か数秒で、無惨に切り刻まれてしまったらしい。このガムに。
くそお、イライラする。かみかみしてぇ。はむはむしてぇ。
イライライライラタンタン
タンタンイライラタンタン
タンタンイライラタンタン
「そんなときに、ボクがいるのだよ」
ガムは私の肩をポンポン叩いた。
ちょっと粘り気があって、スムースなポンポンではなかったが。
そのキラキラした顔に対し、更にイライラし始めたが、がんにょむの言うことも一理あった。
ガムって、そんなときの存在だよ。
私はグレープが描かれたカバーを剥がし
表が白い銀紙を丁寧に剥ぎ
がんにょむの中身を口に放り込んだ
くちゃくちゃくちゃくちゃ
くちゃくちゃくちゃくちゃ
くちゃくちゃくちゃくちゃ
味は抜けて
色も抜けていく。
私たちがそうであるように。