宇宙人
●宇宙人●
宇宙人はスケートをしていた……
木下さんちの廊下で。
「やめれ! やめれ! やめれ!」
叫び狂う木下さん。
アゴはハズれて目は飛び出してて、もうとりあえず醜い木下さん。
「あーへあへあへあへあへ! あーへあへあへあへあへ!」
笑う宇宙人。
アゴはスルドく、瞳は大きく、眉はキリリと整っていて、カラダは銀色に発光していた。
それはまさに宇宙人。
美しく輝くヒト。
でも笑い方は下品。
その下品さは、木下の父親の木下が死んだときの笑い方にも似ていた。
ような気がしたのだ、木下は。
木下はアゴを「こきんこきん」とハめ、目を「くいっくいっ」と押し込み、良い感じに元どおりになった。
元どおりになったところで、良いオトコにも、良いオンナにもならないのだが。
あくまでも平均的なのだが。
「とととうさん、とととうさん」
木下は宇宙人に、父親の姿を見ているらしい。
「とととうさん、とととうさん、とうさん……とうさん……」
「我が子……我が子……」
宇宙人はノッタ。ノリがいい!
木下は抱きしめる。強く、強く、宇宙人を。
「とととうさん、とととうさん、とうさんの会社とうさん……」
泣きながら、そんなことを言う木下。
「ああ、とととうさんとととうさんの会社とうさんしたんだ……」
宇宙人はノッタ。ノリがいいのだ。
「とうさん……とうさん……笑ってほしい……」
「あーへあへあへあへあへ! あーへあへあへあへあへ!」
宇宙人はノッタ。ノリがいいからだ。
残酷なほどに。
そして、二人で廊下にキズをつけたのだ。
スケート靴でいじめたのだ。