インク
二編
●黒インク●
耐水性のインクがこびりついた服は
もう一生を賭けて黒いままだ
そのインクのところだけは
綺麗な感触も綺麗な匂いもしないのに
それはどんなインクでも同じなのに
そのインクは黒いままだ
そのインクは黒いからだ
黒インクだからだ
黒いモノには抱擁できない
黒いモノは全てを吸い取るからだ
黒いモノを見つめる
サイレンが鳴る
黒いモノは熱くて重たい
汚いモノはドス黒い
いろんなモノをたくさん吸いすぎたからだ
汚さが残るモノをたくさん吸いすぎたからだ
だから私はこの墨で出来るだけ綺麗なモノを描こう
それが大掃除に繋がる気がするから
夕闇のなか
夕闇の部屋で
黒ずみ付きの筆をとる
●白いインク●
白ければうざったいとは言われない
白ければ汚いとは言われない
というわけでは無い
鳥の糞は汚いからだ
しかしアレである
ミルクは汚いとは思えないのだ
しかしアレである
ミルクを拭いた雑巾は汚いのだ
しかしアレである
ミルクを拭いた手のひらは汚いのだ
しかしアレである
ミルクを拭いた山下は汚いのだ
しかしアレである
山下の作ったホワイトカレーは臭いのだ
しかしアレである
ホワイトカレーにインクを垂らして混ぜても妹は気付かなかったのだ
しかしアレである
妹は白インクをラー油と言っても気付かなかったのだ
しかしアレである
妹は白インクを小遣いと言っても怒らないのだ
寛大だ
ああ寛大だ