ちらし寿司
三編
●絵描き●
ペイント
絵の具をガバッと出してさ
白とか赤とか緑とか青とか黄色とか
そんで目玉焼きとか野菜とかを書いた
単純な色か適当にかき混ぜた色か
計算して作った新しい乾いた色かで
案外絵の具だけで描けるらしい
目玉焼きとか野菜とか
本物を見らずに書いた
本物が無いから
天空を赤く染めるときは
地面で火が舞うときか夕暮れ時だ
血管とかは色で描かない
黒を使えば全てを飲まれる
海苔を散らす
なんか
ちらし寿司
黒くない
●ちらし寿司●
食べると酢の味がした
甘いアメみたいな酢の味
じゃあ酢ではなくてアメだろう
食べるとアメの味がした……
が、正しい言い方思い方だろう
ああ腹が痛い
腹がぐうぐう鳴っている
ちらし寿司は冷えていたら
本当にただのお菓子だと
私はそう思う
冷えた指がいつも震える
冷えた指はいつも震える
冷えていない指は震えはしない
ちらし寿司のノリは黒くて美味しい
イカのスミは黒くて美味しい
墨汁の味をボクは知っている
とても甘くて
無感情な辛さがあるよ
ちらし寿司に入っているタケノコは甘い
ちらし寿司に入っているしいたけは甘い
ちらし寿司に入っているご飯は甘い
ちらし寿司に入っている肉は甘辛い
総じてちらし寿司は甘い
甘い甘いご飯だろう
お菓子ではないんだろう
墨汁の無感情さには吐き気がしたよ
ちらし寿司の方が数倍マシだ
ちらし寿司はとても美味しい
●墨汁●
筆に染みて
紙に染みて
服に染みて
指に染みて
心には染みない