舌の上で
三編
●霧城●
前が白く霞んだ街
車のライトがポツポツ輝く
曇った光がポツポツ輝く
信号も見えにくい
窓ガラスも曇っている
ハンドルを回す
雪が舞うよりも銀に近付く
でかいトラックも霞んで見える
手元さえも霞んで見える
前方が見えない
ますます見えない
待ち人の姿も見えにくい
無感情運転にも注意が走る
私は走る道を走る
ただ待ち人を背中に乗せるだけ
トンネルの中では霧は無い
私は走るただ走る
子どもたちが霧の中を歩く
木が白く見えなくもない
いつも見ている景色は
いつも見ている景色ではない
少しずつ霧が晴れてゆく
だいぶ遠くまで見えるようになった
この分だとこれは今朝の分の霧になりそうだ
地蔵さんが倒れていた
たった一つ倒れていた
白い城の白さは空に隠れた
●微糖●
コーヒーに角砂糖を一つ落とした
少し波紋を作り
すぐにどこかへ崩れていった
スプーンをカリカリと回した
回して回して回して放った
溶けた気分だ
コーヒーの中で角砂糖も溶ける
湯気が舞う
空高くまでは舞い上がらず
私は呑む前に数分置く
少しさめないと
私は何も呑めやしない
いわゆるネコ舌だから
私は呑む前に数分置く
舌に傷を付けないように
角砂糖が溶けた少し甘いコーヒーに
口をつけたのはいつ頃か
●舌●
口から吐き出せるのは
言葉と二酸化炭素だけだ
舌に絡むのは命だけだ
舌の根元から舌の先まで
ずっと変わらない味を絡めているのだ
渇くことがあったとしても