金網と数学と老
三編
●金網●
金網は揺れるとともに
俺の左右に広がって
サビついた息を整える
僅か数センチの金網に
この全身を預け
肉を差し上げ
骨で限度を知らせていく
遥か上空に在る雲に魂
少しだけ預けてみたこともあるけれど
飽きてしまったのか面倒なのか
未だにに返されていないモノがある
空から分かる
この夢を知らないからだ
ずっと左手に隠し続けた爪先を
今もなお隠し続けている
この手のひらを
広げるつもりは微塵もない
その白く軽やかな思い出を
知らせる勇気は微塵もない
だから今は広げている
ここは俺の居場所だから
金網は軋む
太陽の光に照らされて
ほのかに脈を打ちながら
縮んだ風船を結びつけて
割れないソレも支えながら
金網は軋む
●数学●
人が反抗しないのは
引き算を恐れているからだ
せっかく集まった有能を
少しずつ引かれていくことを
恐れているからだ
そして
足し算を恐れているからだ
無意味に他人から受ける悪意を
一気に増やされていくことを
恐れているからだ
そして
掛け算を恐れているからだ
ただでさえ多い数を
徐々に増やされていくことを
恐れているからだ
そして最後に
わり算を恐れているからだ
ワタシが受けてきたものを
他の誰かに割られていくのを
ずっとずっと恐れているからだ
イコールの次は
常に同じ数でいないと
そう思い続けて何年か
●老●
どぎつい化粧の匂い
ワタシは嫌いだ
でも
ソレを待ち望んでいた霧の人は
確かにそこにいるのだ