缶蹴り
一編
●缶蹴り●
車ひとつ通れるかどうか程度の小さな道
道を取り囲む小さな家々
小さな道から玄関が見える家々
そんな道の端にボクは座り込んでいて
目の前にはひとつの家の玄関があって
玄関の端には犬が居た
餌を貰っているのか不安になる程に痩せこけた犬が居た
恐らくは一日に一度しか貰っていないのだろうが
だから毎夜毎夜に悲鳴にも聞こえる鳴き声をあげているのだろうが
昼間は奇妙な程に鳴かない
そんな悲惨な犬が居た
そんな犬の足元には缶が在る
C.C.Lemonの空き缶だ
何もなしにそれは倒れたらしい
犬はジィッとそれを見ていたらしい
犬は前足でそれを転がして遊んだらしい
缶が地面に当たって跳ねる度
五月蝿い音は転がるらしい
飼い主の人が恨めしい目で犬を見ながら
その犬を、片手に持っていたホウキで
車ひとつ通れるかどうか程度の小さな道
道を取り囲む小さな家々
小さな道から玄関が見える家々
そんな道の端にボクは座り込んでいて
目の前にはひとつの家の玄関があって
玄関の端には空き缶があった
C.C.Lemonの空き缶だ
ボクはC.C.Lemonなどもう随分と飲んでいないらしい
何もなしにそれは倒れたらしい
ボクはそれをジィッと見つめていたらしい
しばらくして座り込んでみたらしい
玄関の端にはサビだらけの鎖があったらしい
そしてボクはC.C.Lemonの缶を持って
近くの自販機の隣りのゴミ箱に棄てたらしい
ボクはまたそこで座り込んだらしい
車ひとつ通れるかどうか程度の小さな道
道を取り囲む小さな家々
小さな道から玄関が見える家々
そんな道の端に私は座り込んでいて
目の前にはひとつの家の玄関があって
玄関の端にはC.C.Lemonの缶が倒れていて
ボクは涙を流した