パソコンの声
一編
●パソコン●
カタカタカタカタ
キーを押すと浅い音
一瞬だけのこの音が
好きで好きで堪らない
クールで硬めな弱い音
ただ
この音を出すのは
私とパソコンではなく
私のお兄ちゃんとパソコンだった
お兄ちゃんはいつも
パソコンの前にいた
パソコンで何かを書いていた
一時期ではブログを
一時期ではスレをやっていたらしい
今は何をしているのだろうか
そのパソコン画面には
難しい文字が沢山並んでいた
よく分からない文字だ
一時期でお兄ちゃんがやっていた
スレにたまに書き込まれる
文字の塊に似ていた
いや
それは文字の塊だった
一時期でお兄ちゃんがやっていた
ブログの方がまだ見やすかった
この塊は
なんだか見ててつまらなかったけど
奏でるあの音が好きだから
お兄ちゃんの隣のベッドに寝ころんで
ずーっと聞いてた
カタカタカタカタ
ある日からお兄ちゃんは消えた
その部屋から居なくなった
何かの賞を取ってから
どこかに行った
都会に行った
その部屋からは何も無くなった
差し込んでくる光さえも
あの音が聴きたかった
あのパソコンを触って
勝手に触ってお兄ちゃんに怒られた
そんな気がした
カタカタカタカタ
そんな気がした
よく分からない文字を捨てて
この場所に留まる選択は
お兄ちゃんの中には
初めから無かった