唇に春夏秋冬
一編
●くちびるに春夏秋冬●
春
春の桜道のなか
キミを見つめる
キミのその
うるおいを持つくちびるに
花びらが舞い落ちて
シールのように貼りついた
愛おしそうに それをはがした
キミの指が
桜の花びら
はずむことなく 舞い落ちる
迷いながら 導かれながら
白い木々のとなりへと
次は地面に貼りつくん?
夏
夏の光道のなか
アナタを見つめる
アナタはその
おっきな口を広げ
スイカを頬張って
口を薄い赤色に染め上げた
くちびるを タオルも使わずに
腕でこすって拭いた気でいるね
二個目を食べて もう一度汚した
くちびるに付いた タネを掴んで
指ではじいて地面に落とした
小さな黒いタネ
瞬間のスピードで
二三度はじいて
アスファルトに落ちる
このタネから 芽ぇ出ないかなあ
秋
秋のもみじ道のなか
キミを見つめる
涼やかな風とともに
キミが小さなくしゃみをする
オレは彼女の口ほどの大きさの
穴の空いたもみじを拾う
そして
彼女のくちびるに もみじを重ねると
めちゃくちゃ怒られ殴られた
ギャグは本当に難しい
彼女に謝ったら
あのもみじをオレのくちびるに
重ねられて 思わずふらついた
枯れて黄色の
もみじは舞い散り なおも
オレの頬を
赤く染め上げた
涼やかだからこそ鮮やかに
冬
冬の白道のなか
アナタを見つめる
雪だるまを叩いて硬くしてる
アナタはアナタの手袋に向かって
長く暖かな吐息を掛ける
ワタシは横で 膝を曲げてそれを見る
暇で暇でしょうがないから
雪玉作って
アナタの横腹に軽くぶん投げた
軽くなのに ぶん投げた
するとアナタは ワタシを
白道に押し倒した
冷えたくちびるに
雪はフワリと降りかかり
それは形を無くして
くちびるの 乾きを消し去った
白い白い空の下 雪だるまは笑ってた