報告と昇級
話を続けて書こうとすると息切れしてしまうので悩んでいます。
次回かその次でメインヒロインに出番をあげられそうです。
ゴブリン100体狩り、終わって見れば実にあっさりしたものだった。
しかし何故だろうか?戦いの途中で明らかに一撃の重さが変わっていた。
それにあの鎖である。
もしかしたらできるんじゃ無いかと思いやって見れば実に呆気なく成功した。まるで某アメコミみたいな動きは以外と痛快だった。
そして、まるで武術家の様な動きだ。厨二病男子としての宿命とも言うべきか一時期型や技を調べたり動きを真似しては悦に浸る黒歴史はあったが所詮真似でしかなかった筈だ。
しかし先程の戦いの中ではイメージ通りに、いや、それ以上に体が動いていたのだ。その事実になんとなく不安を感じる。
「アッシュ、討伐部位を回収するぞ!・・・む?どうした?」
「いや、さっきの戦いで予想以上に体が動いたのがなんだか気持ち悪いと思ってな・・・」
「確かに一つ一つの動きは洗練されていた様に見えたが様子見をしていて段々本気を出していった、という訳ではなかったのだな?」
「そうなんだ。動き自体のイメージは確かに俺の頭の中にあるものでは間違い無いんだろうとは思うんだが・・・その動きが出来るか?と聞かれたら答えはノー・・・だった筈なんだがなぁ」
例えばどんな動きでも見切って、覚える事が出来たとしても実際に動いて見ると劣化した動きにしかならない。
体の能力が劣っていれば結果も劣ってしまうのは当然だ。
それがまるでトレースしたかの様な動きで体が反応して、威力のある一撃を放てていた。
「まあ単体の動きはともかく連撃となるとイマイチどころかダメダメだったがな。イメージ通りに体が動く様になるという事は冒険者に限らず戦う者に良くある事だし余り気にすることでも無いだろう」
「そんなに良くある事なのか?」
「それはもちろんあるに決まっている。知らないのか・・・いや、そうか、知らなかったのだな・・・はぁ」
「溜め息を吐くのは辞めてくれ、悲しくなって来る。まあ俺が知らない事なら後で教えてくれ」
「すまない、それではさっさと回収してしまおう。達成報告もしなくてはだからな」
多少はサーシャが回収と処理をしてくれたのだが後半は場所を変えずに戦う事になったせいでまともに回収仕切れていない。
とりあえず折り重なっているゴブリンの死骸を処理するとしようか。
ゴブリンから討伐部位を回収し、死体の処理をした後サーシャと共にギルドへとやってきた。ゴブリン討伐の報酬は五体でワンセット、銀貨3枚の報酬である。
おおよそ銀貨一枚が1万円程の価値なので一回で約3万の報酬だが相手はゴブリンとはいえ安い様な気がしないでも無い。
「命を賭けて戦うのに随分しょっぱいよなぁ」
「所詮ゴブリンだしな、数が多いから沢山報酬を出しても今度は支払う報酬が無くなってしまう。それに特別何かに使える、という事も無いから仕方ないだろう」
成る程、確かにゴブリンには何かに使える部位はない。ギルドは損しかしない魔獣だ。
弱く、価値もないから安くあげたいのは当然なのか。
「お疲れ様です。本日はどの様なご用件でしょう?」
「ああ、討伐依頼の確認をー」と言いかけた所でサーシャに止められた。何か問題でもあったのだろうか?
耳元でサーシャがここは私に任せておけと囁く。鼻先に微かな甘さを混じらせた匂いを感じた。
「ソロD級のサーシャ・アリアダイトだ。私とアッシュの師弟登録と彼に確定試験の受注を頼む」
「サーシャさんが師弟登録ですか?それはいいとして確定試験の方はまだ彼の功績値が足りませんが・・・そう言えばサーシャさんはまだ推薦権を使用されてませんでしたね。畏まりました、確定試験「ゴブリン100体」の討伐を発行させていただきます」
「アッシュ、出せ」
「出せって、そう言う事なのか?」
展開の速さに戸惑いながらもサーシャの言う通りにギルドカードからゴブリン100体分の耳が入っている革袋を取り出してカウンターに置くと受付の青年は訝しげな表情を向けてきた。
「これは?」
「アッシュの確定試験、ゴブリン100体分の証明部位だ。確定試験の内容は常設依頼扱いだから問題無いだろう?」
果たしてそれは有りなのだろうか?幾ら常設扱いだからとは言え、物が有るから合格にしろと言っている。
例えるなら模試で合格点を取ったから合格にしろと言っている様な物では無いだろうか?
「それでは数量に問題が無いか確認してまいりますので暫くお待ちください」
「って通るのかよ!試験じゃないのか!?」
あっさりとサーシャの要求が通ってしまい思わず突っ込みを入れてしまう。
受付の青年は苦笑していた。
「ええ、問題はありません。ソロD級のサーシャさんの推薦を受けていますしサーシャさんが同行して確認なされているのでしょう?」
「ああ、もちろんだ。不正をしようにも誤魔化せる筈が無いしな。まあ、出来たとしてもするつもりは無いが」
それなら無問題ですと青年は答えた。
「問題無いんならいいんだが・・・すいません。何しろ村から出て来たばかりなので」
「いえ、知っている人から直接聞いて無い限り知らないのが当然なので問題はないですよ」
よかった、特に問題はない様だ。しかし早急に常識を覚えないとこの先苦労しそうだな。
「・・・ゴブリンの耳100枚ぴったりですね。10枚区切りで括っていただけたので数えやすかったです。それではアッシュさん、ギルドカードをお借りしてもよろしいでしょうか?」
ギルドカードを渡すと青年は少々お待ちください、と言い残して一旦カウンターから離れていった。
「なあサーシャ、鍛錬ついでにもう一つ頼みができたんだが・・・俺に常識を教えてくれ。このままやっていくには流石に知識が足りなさすぎる」
「アッシュ、お前への借りはでかいんだ。それぐらいのことならいくらでも力になってやろう」
サーシャはあっさりと承諾してくれる。
「お待たせしました。アッシュさん、ソロE級への昇格おめでとうございます。今後アッシュさんはみなし冒険者ではなく一人前の冒険者として扱われますのでご注意ください。また、ギルド併設や管理下にある施設の優先利用資格なども付与されますが、この街には残念ながら施設がありませんので他の街のギルドで改めてお聞きください」
戻った受付の青年からギルドカードを受け取るとカードの右上に何やらインクのようなものでS:Eと記されていた。恐らくこれがソロE級であることを示しているのだろう。
「それとこちらが確定試験の達成報酬となります」
そう言ってカウンターの上にあるトレーに大銀貨が8枚置かれた。ゴブリン100体で80万か・・・ん?
「なあ、大銀貨2枚多いんじゃないか?」
「いえ、合ってますよ。確定試験でE級に上がった冒険者は大体がその日暮らしでなんとかしてきた人たちですから大抵装備が整っていないことが多いですのである種のご祝儀価格、といったところです。本来はこれで装備を少しでも良いものにしていただきたいところなんですが、大抵その日の夕食が豪華になる結果に終わってしまいますがね」と言って苦笑いする青年。まあそれまで行き当たりばったりな生活をしていたやつに急に計画性を持てと行っても当然無理なんだろう。
「それって現金支給じゃなく装備支給にしたらどうなんだ?」
「一度その案が出たことがあるらしいんですけど在庫管理やサイズなどの諸々の問題が重なって流れちゃったらしいです」
「まあ、もらう側にしても装備より金の方がいいだろう。そもそも装備を必要としない冒険者もいるわけだしな」
「あー・・・確かにそうだな。それなら用途を自分で決められるから金の方がありがたいか」
「よし、アッシュ飲みに行くぞ!昇級祝いだ!」
「またのご利用をお待ちしております」
ハイテンションなサーシャに引っ張られてギルドを後にする。この世界では初めて酒を飲むことになりそうだ。
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