RE:ゴブリン×100
翌朝、サーシャと共に一階の酒場件食堂で朝食を取り、不足品が無いかを確認したあと早速街の外にある林へと向かう事にした。
「本当に防具も付けずに行く気か?」
「ゴブリン程度の攻撃力じゃ俺の鱗でも傷はつかないさ。流石に衝撃は通すがよければいいだけの話だし、まあ危なくなったら助けてくれよ」
「それは確かにそうかも知れんが・・・まあよいか、そこも含めて見極めればいいだけの話だ」
「そうだ、100体狩るのは問題ないが処理はどうすればいいんだ?いちいち討伐部位を回収してグール化対策をすると時間が掛かると思うんだが」
「ああ、それは私がやって置いてやるから気にせず狩るがいい。別に処理のスピードなんて見る必要は無いからな」
「そりゃあ楽でいいな、それじゃあ一丁やって見ますか」
サーシャと話している内に林へと到着した所でタイミング良くゴブリンを見つけた。
「うむ、丁度いいな。早速始めよう」
「オーケー、一丁やってくるとするよ」
声と共に駆け出す。
最初の5匹、昨日と同じく鱗をスパイク状に変化させて踏み込み殴り殺した。
2匹程倒した所で拳を引く時にスパイクが引っかかり邪魔になる事に気がついたので拳を引くタイミングに合わせて鱗で出来たスパイクを一回り細くする事で問題を解決して残りの3匹も同じく処理する。
ゴブリンの死体を放置したまま次の集団を探す。100m進まないうちに発見出来た。次は8体。
今度は拳の上に剣状に鱗が生える様にイメージするとおおよそ望む様な形に鱗が生えてきた。
飛び出していた1匹を前蹴りで蹴飛ばしもんどりうっている所を体重を込めた足で踏み殺す。
相変わらず足裏に嫌な感触が広がるが気にしている暇はない。
腕を振るって近寄って来た2匹の首を切る。運良く骨には当たらずに喉を切り裂いたのかゴブリンの首から泡立った血液が溢れる。
間抜けなゴブリンは慌てて首を押さえて血を止めようとするが当然止まるはずもない。
2匹は放って置いても問題ないので次の相手だ。残った5匹のゴブリンは頭がよろしくないのか先にやられた2匹を見て首を庇おうとしている。
棒を振り上げて開いた手で首をかばえば腹がガラ空きだ。
踏み込んで距離を潰して一閃、腹に走った傷から一拍遅れて臓腑と血が溢れ出す。近場にいたゴブリンの肋骨の下から鱗剣を突き入れる。複数の臓器を纏めて貫く感触が腕に残るのを感じた。
「ゲギャッ!」
背後に回り込んでいたゴブリンが気合い入れたのか声を上げる。不意打ちするなら黙っていればいいのに、なんて考えながら剣を引き抜きそのまま腕を裏拳気味に打ち付けてやるとゴブリンの脆いがゴキリと嫌な音を立てて捻じ曲がった。
瞬時に変形させていた鱗が程よく引っかかったのだろう。
後三匹でこの集団は終わりか、と思ったが耳が新たなゴブリンの鳴き声を捉える。
どうやら少々時間を掛け過ぎたらしい。だが、これで探す手間が省けると考えながら好戦的な笑みを浮かべた。
サーシャ・アリアダイトは驚いていた。
この街では珍しい、どころではなく初めて見る竜人の青年に、もしかしたら竜鱗を分けて貰えるかもしれないと思い声をかけた所迄は良かった。
見た所、腰に剥ぎ取り用のナイフしか付けていない事から登録したばかりの見込み冒険者だと思い、報酬を支払えば鱗の1、2枚ならくれるのでは無いかと思っていた。
実際話しかけて見れば多少警戒をしてはいたが目的を話せばあっさりと承諾してくれたのだがその後が問題だった。
うまい飯を奢れば気分を良くして多少のおまけぐらいはして貰えるんじゃ無いかと思い少々お高めだが味はいい店で食事を終えたあと目の前で止める間もなく鱗を剥き始めたのだ。気がつけば目の前のテーブルには竜鱗が積み上がっていて思わず目眩を感じた。
何せ竜鱗は中央大陸で1枚金貨5〜10枚の価値がある。それが50枚だ。
ソロハンターは稼ぎがいい、とはいえそれはランク相当の報酬が丸々総取りだからであり、蓄えも其れ相応にしかない。
サーシャがパーティーを組んでいればもっと上の階級に行けたのだろうがそれをしなかったのではなく辞めたのだ。
当然パーティーを組めば実力相応の相手だと男女混合になる。そしてサーシャは自惚れでは無く自分の見た目がいいと自覚している。
男女混合パーティーの中に見た目のいい美女が1人、当然良からぬ考えを持つ輩が出て来た。
冒険者はすべからく冒険と鍛錬を司る神の加護を受けており、格を上げれば見た目以上の力を発揮できる様になるのだが、冒険者と言う筋肉で物を考える様な輩はそんな事も忘れて暴挙に出ようとした。
まあそんな奴は徹底的に叩きのめしてやったのだが。
それはそうとして竜鱗である。既に剥いでしまったのでは戻し様がなくそんな大金は払えないとわかっていながらもそのまま贔屓にしている鍛冶屋に行く事になってしまった。
こちらの気も知らずにいるアッシュ---竜人の青年---には少しイラっとしたが。
ゴーヴァンには幼竜を狩ったんじゃ無いかと聞かれたがそんな恥知らずで命を投げ捨てる様な真似はする筈もない。結局そのまま装備を作ってもらうことになってしまう。ゴーヴァンは体で支払ってしまえばいいと言っていたがいくらなんでも他人事すぎやしないだろうか?
その後なんだかんだあって少々の金とアッシュの鍛錬に付き合うことになったのだが常識がなさすぎる。拳闘士モンクかと思いきやスタンスのことすら知らなかった。竜人の村で暮らしていたというがそもそもこの大陸に竜人が暮らしていたということすら初耳だし、聞いてみたところなんとも頭の悪そうな竜人が多そうな村だとか。
これは大変そうだな、と思いながらも常識を教えることまで含めたとしても竜鱗の対価には遥かに届かない。どうせならとことん世話を焼いてやろうと思った。
翌日はゴブリン100体を狩りに行くことに決定し、宿がないということなので自分が世話になっている宿屋を紹介することにした。しばらく鍛錬に付き合うからそのほうが楽だと思っての行動である。
もし「やっぱり体で支払え」と言われたらどうしようか?なんて部屋のベッドの上で考えていたのだが、そんなことはなくあっさり朝が来てしまった。むぅ、私は好みじゃないのだろうか・・・。アッシュは結構好みだし性格も悪くはなさそうだから・・・いやまて、私は一体何を考えてるんだ。
今はそんなことはどうでもいい。問題はアッシュだ。
戦い方はスタンスを使わず自身の鱗を刺や剣のついた篭手のように変化させて戦っている。中央で他の竜人と会ったこともあるがあんなに自在かつ素早く変化させることができたであろうか?と疑問が尽きないがそこまではまだ理解のできる範疇だった。
問題は竜鱗を鎖?のように変化させてからだろう。段々と戦闘音に引き寄せられたゴブリンが増えてきてから戦い方が変化してきた。
周囲を囲まれてどう対処するか?と思って見ていれば鎖状の竜鱗(そう言っていいかは疑問だが)を離れた木に巻きつけたかと思うとそのまま宙を浮かんでゴブリンを抜け出したのである。
よく見てみればなぜか鎖状の鱗がまるでまき取られているかのように縮んでいた。正直訳がわからない。
抜け出したあともおかしい。適切なたとえなのかは分からないが戦いの中で成長している。というよりかは戦い方を思い出している。と言ってしまったほうが正しいだろう。最初はお世辞にも綺麗な戦い方とは言えず素人丸出しな喧嘩殺法だったそれが何らかの武術の心得があるような戦い方へと洗練されていった。
モンクの流派にはあまり詳しくはないがその動きには何らかの理が感じられる。惜しむらくは単体の動きはいいのだが連撃になるとごちゃまぜになっている、といった方がいいのだろうか?
「これは鍛えれば化けるだろうな」
それは確信だ。ただでさえ身体能力に優れている竜人であり戦いとなっても躊躇がない。ためらえば死ぬのは冒険者、いや、戦うものとしての常識であり、躊躇わないことができなければいつか死ぬのは明白である。
ズブの素人を鍛えるときはそこが分水嶺とも言っていいのがアッシュは既にそれができている。そこに割く時間がいらない、となれば他よりリードしているといってもいい。
そして自身の戦闘スタイルがある程度できているのもいい。連撃について直してやればすぐにでもソロE級、いや、ソロD級の下位程度の依頼ではこなせるだろう。かなり自由度が高く変化する鱗があるというのもでかい。
もし、ソロD級まで上がってこれたなら彼とパーティーを組んでみるのも悪くないかもしれないと思いながら次の獲物を探しているアッシュを追いかけた。
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