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プロローグ---おらこんな村嫌だと逃げたしたら死にかけたけど結果オーライってやつかも---

ああ、調子に乗った結果がこれか、と薄れゆく意識の中で思う。


短い人生だった、とアッシュ・グレイスケイルは回想していた。


ドラゴニュートに生まれたのはよかった。---何せ人種族の中では全体的な能力が遥かに優れている。というのはこの大陸にドラゴニュート達の国家であるドラゴネストに並ぶ国家がないことがそれを証明している。


失敗したのは前世の記憶があり転生したという思い込みから自分が物語の主人公になったかのように調子に乗っていたからだ。


俺の鱗の色はアッシュグレイ・・・少なくとも俺が住んでいた村の常識ではドラゴニュートの鱗の色というものは一部の例外を除いて原色に近ければ近い程美しく、また本人の能力の高さを示しているようだ。それに俺の顔がドラゴニュートたちのスタンダードである龍顔ではなく人間よりだったことも影響はしているのだろう。当然のごとくドラゴニュート達の価値観では龍の顔に近ければ近いほどイケメンor美女である。


まあ顔に関しては人間よりで良かったと思う。正直村で一番のイケメンと美女は現代人の完成としては化物にしか見えん。


当然、俺の鱗の色は村の価値観から言えば汚い色となりそんな鱗を持っていて不細工である(といってもドラゴニュートの物差しだが)俺を村のドラゴニュート達は迫害した。


記憶にある人間なんかの迫害に比べれば龍の血族としての誇りを持つドラゴニュート達の迫害なんていうものは到底生ぬるいものだったのだが嫌気が差した俺は人族の街へと逃げることにした。


当然のように俺は油断していた。鱗の色や顔はともかくドラゴニュートとして生まれていること。何より転生しているという事実があった。

そもそも冷静に考えれば転生して記憶を持っていたからといってファンタジー小説のようなチートを持っていることなんて神様に会って転生させってもらっていたなんてパターンでもなければ持っている筈もない。


前世の・・・しかも日本人として生きていた記憶を持っているのがチートだとしてもそういった記憶を活かすような努力をしなければ持ち腐れに過ぎないのである。


迫害されたとはいえドラゴニュート達のしきたりで戦いの訓練を受けていたが口が裂けても努力をしていたとは言えなかった。


ぬるま湯に包まれたような生活をしていた日本人にはとても耐えられないような訓練に当然のごとく俺は挫折したのだ。


結局認識の甘さからいつかチート能力が目覚めて俺つええができるはずなんて楽観視していたからこその村を出るという暴挙を行ってしまった俺は人族の街が見えた山道でアホのように油断してしまった。


思いっきり油断しているところに魔獣であるグラムベアーの襲撃を受けた結果、一撃を受けてそのまま崖から落下した。


今ばかりはドラゴニュートの体が恨めしい。唯の人間ならグラムベアーの一撃で死んでいたのだろうがこの無駄に丈夫な体は今にも死にそうながらも意識を完全に飛ばすことも許してはくれない。


また、死ぬのか・・・流石に次も記憶を持ったまま転生なんて都合のいいことはないんだろうけど・・・・もし、もしも記憶を持ったままなら次こそは・・・



・・・暗闇の中で声が聞こえる。


ささやくような、とても小さな声だ。何かを恐るようで、何かに期待したような、か細い、綺麗な声だ。


わたしといっしょにいてくれる?


一緒に?俺と?・・・俺なんかでいいのだろうか?こんな増上慢で、役立たずな俺でも?


きみで・・・きみがいい。やくたたずかどうかなんてまだ、わからない。それにいっしょにいてくれるだけでもいい。


そっか、嬉しいな。こんな俺に、そんな言葉を掛けてくれるなんて・・・でも、ごめん。できることなら一緒にいてあげたいけど俺、死んじゃうんだ。きっと今聞こえている声も、都合のいい幻聴なんだろうな・・・。


・・・。


もしも、もしも生きていたなら・・・


続きは言葉にはならなかった。もしも生きていたなら一緒にいたいと、そう思う。





なんだかいい夢を見た気がして、その余韻を感じながら目覚めると、白く冷たい台の上に横たわっていた。


霞む眼に力を入れて周囲を見ると壁に備え付けられた棚には一見では何に使うかわからない道具の類や形容しがたい色をした液体の入った瓶が溢れている。


特に興味を引いたのは壁のポッカリ空いたスペースに飾られている黒くてヒビの入った一枚の龍鱗だ。


人の顔程のサイズがありこの鱗の持ち主であるドラゴンが途轍もなく長い時を経て育ったのだと言うことがわかる。しかし、本当にここは何処なんだろうか?


少なくともあの世と言う事はないだろうし、体を改めて確認しても間違い無くこの世界でドラゴニュートとして生きて来た俺の身体だと言う事はおそらく運良く生きていたのだろう。


そしてこの部屋の主が俺を見つけてここまで運んで治療してくれたのではないだろうか?


身体にかけてあったシーツを取り払い台の上から降りてみる。


傷の後遺症もない様で一通り身体を動かしてみても何の違和感も無い。


明らかに致命傷だった筈なのだが治療をしてくれた人物が途轍もない腕持っていたのだろう。


作業机と思わしい物の上に置いてあった自分の服を取って着込むが改めて見てみれば熊の爪に引き裂かれた時や崖から落ちたときにボロボロになってしまった服もきれいに繕われていた。


「なんていうか、いたれりつくせりって感じだな・・・」


しかしこの部屋の主はいないのだろうか?もし善意で助けてくれたのならきちんと礼をしなければいけない。・・・まあ、善意じゃなければ逃げさせてもらうが・・・。




ドアを開いた先はごくごく普通の居間だった。


中央には低めのテーブルがあり、それを囲むように柔らかそうなソファが置いてある。


追先ほどまで自分が寝ていた部屋の怪しさに比べたら遥かに普通な部屋である。


さて、結局助けてくれた人は今は留守のようなので少し待たせてもらおうとソファに近づいてみたところでその人物はいた。


丁度ソファの背もたれに隠れて見えなかったのである。


あどけなさの残る、美しさと可愛らしさを兼ね備えた顔の少女がすやすやと寝ていた。


成人女性の平均身長から比べたらかなり低めの部類に入ってしまうような慎重だが少女の魅力を損なう要素にはなり得なく、むしろ顔の幼さにマッチしていて、呼吸音が聞こえなければ特殊な趣味を持った人間が審決を注いで作った人形ではないかと思ってしまうところだった。


少女が寝ているソファの対面に座りながら思考する。


おそらく、この少女の親が俺を運んでくれたのではないだろうか?


少なくとも犯罪者の類である可能性がぐっと減ったのは僥倖だった。少女の身なりはしっかりしていて盗賊の類ではないと思われる。


まあ実際のところは話してみたり相手の反応を見てからでないとわからないのだが---とそこまで考えていたところで視線を感じて顔を上げると寝ていたはずの少女が目を覚ましてこちらを見ていた。


なんとなく、困惑したような雰囲気を感じるがそんな顔をしても可愛いなぁなんて感想しか出てこない。


意を決して話しかけてみる。


「あー、その、俺はアッシュ・グレイスケイル。多分、というか間違いなく死にかけていたと思うんだけど君の親御さんが助けてくれたのか?もしそうなら礼を言いたいんだが・・・」




沈黙で返された。どうしよう、と考え始めようとしたところでようやく返答が帰ってきた。なんとなく、聞き覚えのある声だが一体どこで聞いたのだろうか?」


「・・・なんで?」


なんで?とはどういうことなんだ?礼を言いたい、ということに対してのなんで?なのかそれとも・・・俺が生きていたことに対してのなんで?なのだろうか?


「わたしが見つけた時は確かに死んでいたはず・・・もしかしてグール?・・・でも理性もあるようだし喋るグールなんて存在しない・・・じゃあリビングドール化が終わった?・・・それもありえない・・・処置は終わってないしリビングドールが完全な自立をすることも無いはず・・・ラインがつながっている気配もない・・・わからない・・・」


ああ、なんで?は自分に対する疑問の定義だった訳か、しかし聞き捨てならない情報もあったな。


1:彼女が俺を見つけた時は死んでいることが確認できた。

2:「わたしたち」でなかったことからおそらく彼女単独で俺を発見した。

3:グールになっているわけではない。

4:彼女は俺の死体をリビングドールにしようとしていた。

5:でもリビングドールでもなさそう。


・・・んん、リビングドールか。現代人的な観点から言えばファンタジーにおけるネクロマンサーのような死体を弄ぶおぞましい行為なのかもしれんがこの世界における常識となるとあんなど田舎の村の人間じゃわからない。


ここは聞いてみるに限るか、聞かぬは一生の恥っていうくらいだしな?


「あ・・・ごめんなさい・・・。考え事に夢中になってた・・・わたし、アーデルハイト・バラデュール・・・エルフとドワーフのハーフ・・・あなたはドラグニル?」


話し方も独特だな、なんというか文章にしたら三点リーダーが多くなりそうだ。それとドラグニルってやつは多分こっちの国で言うドラゴニュートの呼び方なんだろうと納得する。


「ああ、多分?ドラグニルってやつだ。バラデュールさん、改めて礼を言う。君のおかげで助かった

から俺はまだ生きることができる」


「・・・アーデでいい・・・さんもいらない。わたしは助けようと思ったわけじゃなくてあなたの死体でリビングドールを作ろうとしただけ・・・」


「じゃあ俺もアッシュと呼んでくれ。アーデ、聞きたいことがあるんだがいいか?」


「・・・ん、構わない。答えられることなら」




それから色々話をした結果俺があまりにもなにも知らないことがわかった。

例えば簡易的に自身の能力を知ることができる感応紙と言うものがある(当然そんなものが存在してるとは知らなかった)のだがそれで自身の能力を見たのだが---


アッシュ・グレイスケイル※シール


種族:竜人※シール


固有値※シール:体力 20 頑強 35 知力 27 精神 15 俊敏 32


種族特性※シール


竜鱗操作3 竜鱗生成2 竜化1() ブレス2 目利き3


スキル※シール


体術2 剣術1 放出1 走破3 


固有スキル※シール


コントロール3 効率化4 ※※※※※2


という結果だった。シールくっつき過ぎwwwとか笑うところ・・・?


「なあ、このシールってなんだ?」と尋ねて見たら物凄く呆れた目で見られた。何か悪い事でも聞いてしまっただろうか?


「・・・本当にアッシュは何も知らない・・・」


どうやら俺が知らなかった事が問題らしい。


「だから何度も言ってるけどど田舎の村で育ったから常識だって村での生活に必要な程度しか教えて貰ってないんだよ。悪かったな・・・」


しかしここまでくれば余りにも俺が何も知らない事について疑問がでて来て村に不信感が湧いてくる。


思わず不機嫌な顔になってしまう。とアーデは慌てて(と言っても顔と口調だけ)言葉を続けた。


「その・・・ごめんなさい・・・少なくとも10歳ぐらいまでには教えられる筈の知識だから・・・」


改めて聞いて見るとどうやらシールと言うのは対象の能力を封印するものらしい。主に奴隷や犯罪者、放って置いたら厄災を招きかねない呪物に掛けられるものだとか。


ただし後から成長した固有値や生えてきたスキルについては改めて封印をかけ直さないといけないらしい。


10歳ぐらいまで、と言うのは悪戯盛りのガキに悪い事をしたらお巡りさん呼んで警察に連れてって貰うからね!的なニュアンスで悪い事をしたら封術師の所に連れて行って封印するからね!と言う使われ方をするからだそうな。


「それなら・・・アーデが謝る事じゃ無いな。少なくとも俺は物心付いた時には既に落ちこぼれって言われるような状態だったんだ。多分村の連中の誰かかもしかしたらそれ以上の存在が俺に術を掛けたんだろうな・・・本当、改めて聞いて、考えてみれば怪しい村だ」


態々封術なんか掛けておきながら落ちこぼれ扱いする理由がある筈も無い。もし理由があるとしてもそれはきっとくだらなくて碌でもない理由なのだろう。


「そうだ、封印なら解除出来るんじゃ無いのか?」


まあ、誰だって考え付くだろうが封印と言う事は敢えて解除の方法を用意しないとかなら兎も角、奴隷や犯罪者に使用される術だと言うのならまず間違い無く解除方法は存在する筈だ。


「難しいかもしれない・・・確かに解除する方法はある・・・けれどアッシュの場合や封術の基点になる呪紋が刻まれた物を身に付けていない・・・だから、呪紋は魂に刻まれていると思うから、難しい」


「魂にも刻めるのか・・・そりゃあ凄いな・・・まあ、そこはいいとしても何で魂に刻まれていると難しいんだ?」


「封術の解除自体は封術の適正を持った術者が適正順序で呪紋に籠められた魔力を抜く事で解除できる・・・けど、順序をその封術を掛けた術者以外が知るには呪紋を見なければわからない・・・とても実力があれば別だけど・・・」


つまるところ暗闇で何かをする様な物か。確かに難しいだろう。


「聞いた話では、空気中の魔力を溜める呪物が、掛けられた封術を破って大騒ぎになった事がある・・・だから外部から魔力を籠める事で解除出来るんじゃ無いのか?ということで研究されている・・・らしい」


「らしいって、確定情報じゃ無いのか・・・それでも人間の平均固有値の1.5倍があるなら冒険者として生きる分には困らないだろう?」


「たぶん・・・」


多分ってどういうことだ?思わず胡乱な目で見てしまった。


「・・・その、わたし、人が苦手だから・・・ほかの人のことはあまり良くわからない」


どうやらコミュニュケーション障害っぽい匂いがする・・・それにしては俺とは話せていると思うんだがなぜだろうか?


「なあ、俺と会話するのは大丈夫なのか?もし負担になっていたならすまん」


「ううん・・・アッシュは竜人で人間じゃないから大丈夫。この街に住んでいる亜人種はすくないし・・・わたしが知っている人たちは冒険者をしていないから」


文字通り人間が苦手ってことなのか・・・何があったかは分からないがエルフとドワーフのハーフなんて珍しい存在だから苦労してきたんだろう。

それはともかく、とりあえずは冒険者ギルドに行ってみてからって感じだろうか?自分の実力を把握出来てない以上、調子に乗っていたらまた同じ目に会いかねない。

当然ながらそんなオチは願い下げである。


「それならまずは冒険者ギルドに行ってみるかな」


「・・・冒険者、するの?」


「ああ、仕事しないと飯にも寝床にも困っちまうからな。それにせっかく竜人に生まれてるんだ、特性を生かしやすい仕事をするべきだろう?」


「・・・そう」


「まあ今日は流石に夜も遅いみたいだし・・・とりあえず野宿するか」


ドラゴニュートの体なら一晩ぐらい問題ないのは実践済みである。

しかも山道とは違って街中だ。場所を選べば大丈夫だとは思う。


「色々と世話になったなアーデ。今は無理だけどいずれ恩を返すよ」


立ち上がってドアへ向かおうとしたところでアーデが声をかけてきた。


「ま、まって・・・」


「おう、なんだ?」


「その・・・もしよかったら泊まっていってもいい・・・アッシュがいてくれたら安心できる」


安心って・・・会ったばかりの男を泊めて安心できるのだろうか?


「今はともかく・・・アッシュが死んでたのは間違いない・・・せっかくお話できたのに、街中で死んでたりしたら・・・こわい」


正直な話、こちらとしてはありがたいしアーデの心根のよくわかる言葉だった。


「・・・ええこや」


「・・・?」


思わず呟いてしまったがアーデには聞き取れなかったらしい。


「・・・ダメ?」


気が付けばアーデが近づいてきて俺の事を見上げている。

アーデさん、その上目遣いは反則、反則ですぞ!涙目のコンボもやめてほしいですぞ!なんて思わず脳内で変なコメントが飛び交っていた。

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